石川県によると1月12日時点で、能登半島地震による死者のうち10人に災害関連死の疑いがあるという。
災害関連死とは、地震による建物の倒壊や津波など直接的・物理的な原因ではなく、災害による負傷の悪化や避難生活等の身体的負担による疾病が原因で亡くなること。
内閣府によると、災害関連死は高齢者の割合が多く、東日本大震災では87%、熊本地震では78%が70歳以上だった。また、熊本地震の災害関連死は呼吸器系と循環器系の疾患が6割に上っている。
2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震など、過去の地震の災害関連死について分析してきた関西大学の奥村与志弘教授は、能登半島地震の被災者の現在の状況について、「最初の1週間は若い世代にも警戒が必要になるが、これから先は70歳以上の高齢者の災害関連死に注意が必要な時期になってくる。循環器系や誤嚥性肺炎などの呼吸器系疾患などにも気を付けなくてはならない」と指摘する。
こうした災害関連死は、どのようなきっかけで起きるのか? 奥村教授が行ってきた分析によって、その発生過程が浮かび上がってきた。
奥村教授は、「例えば誤嚥性肺炎であれば、歯磨きをあなどってはいけない。避難生活の中では後回しになりがちだが、避難所だけでなく、自宅や介護施設などで過ごしている方々も、歯磨きを怠ると口腔内の雑菌が増えて誤嚥性肺炎が発生しやすくなり、災害関連死につながっていく。また、仮設トイレが不衛生な状況で、行く回数を減らそうとして水分をあまり摂らないようにしてしまう。すると脱水症状で血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群につながる。そして、温かい料理が取りづらく、偏った食事で食欲が低下すると栄養不足になり、血圧が上がりやすくなると、心臓や脳などの循環器に疾患が発生して関連死につながっていく」と関係性を示した。
さらに、今回の能登半島地震での災害関連死の発生状況については、「5万人規模の避難者に対して、この時点で既に10人が災害関連死の疑いがあると報告されている。かなり深刻な環境に置かれている地域が少なくないとみられる」と分析。そのような過酷な環境の中で、リスクを減らすためには、どのような対策がとれるのだろうか?
「災害関連死の原因は非常に多岐にわたっており、何十という数の死因が毎回確認されているが、どのような持病があったのかなど個人の属性によって死に至る過程も異なってくる。何が原因で亡くなる恐れがあるか分からない中、あらゆる原因への対策が求められるが、けっして高度な医療が無ければ対応できないものではない。温かい食べ物や睡眠をできるだけとる、口腔ケアをおろそかにしない、など一般の人にもできることがたくさんある」
対策が必要な場所は避難所だけではない。奥村教授は、「避難所に行くことも難しいような体の弱い方々が、自宅や高齢者施設などで厳しい生活を続けている。そのため、朝昼晩と日課のように様子を見に行くなど、早い段階で異変に気付ける体制を地域にしっかりと築くことも有効だ」と対応の必要性を示した。
高齢者施設や病院などにいる被災者について、県外への二次避難がなかなか進んでいないと指摘する声もでている。これについては、「災害時に体が弱っている方々を一刻も早く県外に出すのは非常に重要な政策だが、実はこういった方々を動かすこと自体もリスクになる。東日本大震災の時は福島県で、体の弱い方を移動させたことが原因で亡くなったという関連死も起きている。避難する時も、災害後に故郷に戻る時も長距離を移動することになり、それに耐えられるかどうか慎重に検討している部分があるのではないか」との見解を示した。
今も道路が通れなくなって孤立している集落もあり、避難生活は長期化している。奥村教授は、「関連死を防ぐためにできることは色々ある。水をこまめにとる、同じ体勢でいると血栓ができやすくなるのでできるだけ体を動かす、床に近いところで眠ると粉塵を吸い込みやすくなるので段ボールベッドなどが入っている避難所では活用する、といった工夫が大事になってくる。やれることは多岐に及ぶので、1つ1つできることから対応していく。周囲の力も借りながら、特に今後数カ月は70歳以上の高齢者に気を配ってほしい」と改めて注意を促した。
(『ABEMAヒルズ』より)
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