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【映像】2000万円を請求され、自己破産した元郵便局長の「絶望の表情」
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 イギリスの郵便局を巡る史上最大の冤罪事件と言われる問題で、会計システムを提供した富士通の幹部が議会で証言した。大きな批判を集めることになった背景をイギリス在住のジャーナリストに聞いた。

【映像】2000万円を請求され、自己破産した元郵便局長の「絶望の表情」

「富士通はこのひどい冤罪に関わったことに対して謝罪する。我々は当初から関与しており、システムのバグやエラーが存在していた。民間受託の郵便局長らの訴追にも加担していた。心よりお詫びする」(富士通・欧州地域共同CEO ポール・パターソン氏)

 16日、イギリス議会で謝罪したのは、富士通の執行役員ポール・パターソン氏。日本の企業である富士通がイギリスで注目の的となっている背景にあるのが、郵便局の会計システム「ホライゾン」を巡る問題だ。

 ホライゾンの開発を手がけたのは、富士通が1998年に完全子会社化したイギリス企業のICL(現・富士通サービシーズ)。その翌年の導入後、会計システム上の残高よりも実際にある現金が少なくなるといった問題が相次いでいた。

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「イギリスで生活をしているとよくあることだが、現金の受け渡しをするときに過不足が発生する。そういう人間の手作業によるミスを防げるということで、ホライゾンというコンピューターシステムを導入したが、思っていたほど完璧なものではなかった」(イギリス在住の国際ジャーナリスト 木村正人氏、以下同)

 イギリスでは、フランチャイズ契約を結んだ民間の事業者が、地域の窓口業務などを担っている。父親から事業を引き継いだ元郵便局長の男性は、政府が所有する郵便事業会社から10万8000ポンド(現在のレートで約2000万円)を請求され、自己破産に追い込まれた。

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「民間郵便局長は1人1人孤立させられていて、『あなたは現金の過不足が生じていると言うけど、こんな問題が生じているのはあなたのところだけだ』と言われて、民間の郵便局長はみんな真面目だから『はぁ~』と思うようなタイプの人ばかり。『自分の責任だ』と思って、できる間は自分の貯金からそれを穴埋めしていた。それができなくなったら『逮捕するぞ』と言われる」

 700人以上の郵便局長らが横領や不正経理の罪で有罪となったが、その後、ホライゾンの欠陥による冤罪であることが判明。2021年、一部の人は有罪判決を取り消されたものの、その数は100人足らずで、保証も遅れに遅れている。

 しかし、今年に入り事態は急速に動き始めた。きっかけは、郵便局長らへの取材をもとに制作したドラマが1月1日から4日連続で放送されたことだった。

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「今のイギリスはインフレがすごい。賃貸住宅の賃料もものすごく上がり、払えなくなっている人がたくさんいる。『なぜこんなに真面目に働いて税金を納めてきたのに、こんな目に遭わなければいけないのか』とみんな心の中で思っている。『誰も自分の苦しみに耳を傾けてくれない』という心情をこのドラマでものすごくうまく描かれていた」

 木村氏は、すべてを失った郵便局長が無実を証明するまでの闘いの物語が、イギリス国民の心を動かしたと分析。国内の関心が一気に高まったことによって、スナク首相は被害者の救済を進めるための新たな法律を制定する考えを表明した。

「これはイギリスの歴史上、最大級の冤罪だ。地域社会に貢献しようと懸命に働いていた人たちが、自身に何の落ち度もないのに人生を台無しにされた」(スナク首相)

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 欠陥がある会計システムを納入し被害を放置してきたとして、いま富士通は厳しい批判にさらされている。

「契約の問題があるので単独では判断できない。ポストオフィス(郵便事業会社)と契約しており、クライアントなので、『クライアントの言う通りにしていただけ』というのが富士通の言い分だと思うが、ドラマが放送されて政府とポストオフィスは白旗を上げて、『反省している、全部償う』と言った。しかし、富士通はそのタイミングを逃してしまった。(富士が信頼を回復するためには)非をしっかり認めること。システム開発上、バグのないシステムはないわけで、そのときにきっちり『こうやっている』ということを正直に見せるしかないのでは」

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 イギリスの郵便局はほぼすべて、政府が所有する郵便事業会社とフランチャイズ契約を結ぶ個人事業主が経営をしている。郵便局で1999年から使われていた会計システム「ホライゾン」の欠陥により取引金額の不一致が発生していた。差額が発生する度に郵便局側が補填しなければならず、払えない人が続出、破産者も出た。横領や不正会計などで700人が有罪となった。

 イギリスには私人訴追権があり、刑事事件において個人・企業が警察・検察を通さずに自ら証拠を集めて裁判所に訴えることが可能。郵便事業会社がこの制度を使い、誤った証拠で有罪判決になった。

 イギリス国内でもあまり知られていなかったこの事件がドラマにより明るみになり、スナク政権や警察はいま批判に押される形で救済、捜査を進める形になっているという。

 システムのバグや欠陥は避けられないものだとすると、対処する人間の問題なのだろうか。働き方を研究する「Alternative Work Lab」所長・石倉秀明氏が自身の見解を明かした。

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「例えば、富士通がバグに気付き、それを『直しましょう』と提言したとして、クライアントが『直さなくていい』と言えば、それは直さないという意思決定がされている。逆に、富士通が気づいたけれど直さない、クライアントに報告しないという決定をしていたとすれば、それも人間の意思決定によるもの。実はシステムの問題のように見えて、関わっている人たちがその問題を把握したときに、どう行動、決定するかで結果が変わってしまう。ある意味、誰しもが陥る可能性がある事態だと思う」

「バグの影響をどこまで考えて、どこまでコストを払って対処するか。作る人、気づいた人の報告体制、影響範囲などをしっかり考えた上でプロジェクトマネジメントやチームの雰囲気作りを根本的に考えないと、また同じようなことは起きるだろう」

(『ABEMAヒルズ』より)

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