ファンどころか見ている棋士でさえ「おおー」「将棋ってこういうものですか…」と、うなるばかりだ。日本全国を8つのブロックに分けた団体戦で行われる「ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治」予選Bリーグ1回戦・第1試合、中部 対 関西Bが2月3日に放送された。中部のエースである藤井聡太竜王・名人(王位、叡王、王座、棋王、王将、棋聖、21)は2番手として第2局から登場すると、圧巻の5連勝を飾りチームを勝利に導いた。師匠で監督の杉本昌隆八段(55)をはじめ、チームメイトの3人の棋士は、快進撃を見守るばかりとなっていたが、八冠保持者の一手と独特の間合いに、感嘆の声をあげずにはいられなかった。
8タイトルを独占し、一般棋戦も出れば優勝。将棋界の天下統一を成し遂げたような藤井竜王・名人だが、超早指しのフィッシャーでもとにかく強い。第1局、服部慎一郎六段(24)が敗れ、第2局にして藤井竜王・名人が出場することになったが、これが快進撃の始まり。古森悠太五段(28)に苦戦しつつ勝利を収めると、ここから指すごとに内容が尻上がりに良化し、次々と快勝を収めていった。
あれよあれよと4連勝し、チーム勝利に王手をかけた第6局。相手はタイトル経験もある斎藤慎太郎八段(30)。第3局でも対戦し、この試合2度目の対戦になると、先手の斎藤八段が右四間飛車、後手の藤井竜王・名人は居飛車でスタート。斎藤八段側が、なんとか相手の勢いを止めようと工夫を入れた序盤になった。
ところがエンジン全開になっていた藤井竜王・名人の手は冴えまくり、周囲の予想を次々に裏切っていく。序盤、△8六歩と唐突な突き捨てを見せたことで両チームの控室から「えー!?」と驚きの声があがると、大盤解説の聞き手を務めていた本田小百合女流三段(45)も「すごい!新しくないですか。△8六歩を突き捨ててから△6四銀って」と、見たこともない手順に興奮気味になっていた。
さらに八冠王の魅惑の手は続く。盤面中央で戦いが始まったと思いきや、すっと△1四歩と端歩を突いた手に、中部の控室では棋士一同が「おおー」と声を揃えることに。解説の冨田誠也四段(27)も「ここでですかー。よさげですね」とつぶやいた。さらに指し手は▲3五歩、△7五歩と進むと師匠・杉本八段は思わず「この間合いが…。将棋ってこういうものですか」と、シンプルに△7五歩ではなく、一度△1四歩と間を入れたことに感嘆していた。
ガツンと攻めるばかりでもなく、ガッチリ守るだけでもなく、なんとも絶妙な間合いで少しずつリードを奪うあたりも藤井竜王・名人の真骨頂。結果、じりじりと差を広げていくと、そのまま勝利を収めて圧巻の5連勝を飾っていた。
◆ABEMA地域対抗戦 inspired by 羽生善治 全国を8ブロックに分けた「地域チーム」によって競う団体戦。試合には監督とチームから選ばれた出場登録棋士の4人の計5人が参加可能。試合は5本先取の九番勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールール。試合は1試合以上出場する「先発棋士」と、チームが3敗してから途中交代できる「控え棋士」に分かれ、勝った棋士は次局にも出場する。先発棋士は1人目から順に3人目まで出場し、また1人目に戻る。途中交代し試合を離れた棋士の再出場は不可。大会は2つの予選リーグに4チームずつ分かれ、変則トーナメントで2勝すると本戦進出。ベスト4となる本戦は通常のトーナメント戦。
(ABEMA/将棋チャンネルより)