「食糧不足を救う」として注目を集めている、食用コオロギの会社が倒産した。
【映像】食用コオロギを使ったパスタやアイスもなか
新規参入から、わずか3年で破産手続きを始めたのは、長野県茅野市に工場を持つ「クリケットファーム」。親会社を含めた3社での負債総額は2億4290万円にのぼる。クリケットファーム公式サイトでは「世界ではいま食糧危機への警鐘が鳴らされています。だからこそ、私たちは昆虫食に着目し、動物性タンパク質をとるための新たな選択肢を世の中に提案していきます」などと呼びかけていた。
同社の手がけるコオロギパウダー配合の食品は、茅野市や岡谷市のふるさと納税の返礼品にも採用され、NHKや民放のテレビ番組でも取り上げられていた。しかし2023年12月分の家賃支払いが止まり、2024年1月に弁護士から倒産する旨の連絡が入ったという。
昆虫食はSDGsの観点で注目される一方で、街の声は「ちょっと苦手かも」「形そのままでくると、ちょっとうわってなる」「見た目が無理」などといった嫌悪感も示される。
岡谷市の吉田浩市議と中島秀明市議は、クリケットファームに注目し、当時の会派で工場内を視察していた。「食育」として学校給食への提供や、工場見学などの地域交流ができないかとの要望を受け、坪井大輔社長の印象を「すごく前向きな人で、チャレンジ精神旺盛。全部自動化していた」と振り返る。一方で中島氏は、「昆虫食にする必然性が見つからない」とも指摘する。この地域で昆虫食が定着したのは「タンパク質をとるために必然的に食べていた」ためだとして、ビジネスモデルの道筋が見えておらず、「まだ時代が早かったのかなという感じ」だと分析した。
昆虫食をめぐっては昨年2月、徳島県立小松島西高校でコオロギパウダーを使った給食を試食で提供し、「子どもに食べさせるな」といったクレームが相次いだ。給食にコオロギパウダーを提供したのは、徳島大学での30年近いコオロギ研究を経て、2019年に創業した昆虫食ベンチャーのグリラス。高校生の出したアイデアに協力しただけだったが、当事者ではない一部SNSの声で炎上し、逆風にさらされることとなった。同社はペット用のコオロギ粉末飼料を提供する「コオロギ研究所」の閉店を決めた。渡邉崇人代表取締役は、取材に対して「畜産物の増産には、限界がある」と言われるなか、牛や豚、鶏の値上がりが懸念され、「こうした事態を未然に防ぐため、『新たな選択肢』を提供することが、食用昆虫の役割だ」と語る。
「私たちは、決して、コオロギを食べたくない人が、無理にコオロギを食べなければならない世界を作ろうとは考えていません。むしろ、そうならないように、必要な時に、必要な人の手に渡るように、今から技術を磨き、研究に取り組んでおります」(グリラス・渡邉崇人代表取締役)
これまでベンチャーの浮き沈みを見てきた元大和証券の経済ジャーナリスト・内田裕子氏は、社会課題の解決は、あらかたやり尽くされていて、「理念や志が高くても、商売にならないものは3年が限度」とされていると説明する。クリケットファームについては「SDGsというきれい事だけではビジネスできない部分と、ベンチャー投資ブームが終わったという2つが重なった事例」との見方を示した。
昆虫食は、2013年に国連の食糧農業機関(FAO)が「世界の食糧危機の解決に、栄養価が高い昆虫類を推奨する」との報告書を発表したことをきっかけに、まず欧米で関心が高まった。日本では2018年に国内初のコオロギパンが発売され、2020年に無印良品のコオロギせんべいが「爆売れ」した。
クリケットファームは、そんなブームの最中である2021年に設立され、2024年に倒産している。内田氏は「イノベーションを志すチャレンジは拍手を送りたいが、想像以上に需要がなく、時期尚早だったのではないか」と分析している。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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