世界中で年間5万人以上が死亡していると言われる狂犬病。そんな中、日本国内でのワクチン接種率の低下が問題視されている。
危機感が薄れる中、知っておくべき狂犬病の正しい知識を専門家に聞いた。
2月上旬に発生した、群馬県伊勢崎市で子どもら12人が四国犬にかまれた事件。この犬が狂犬病の予防接種を受けていなかったことが発覚し、市は飼い主に対して予防接種を受けるよう指導した。
狂犬病予防法に基づき、1年に1回の接種が義務付けられているが、実は近年狂犬病の予防接種率は低下傾向にあり、2022年度の接種率は全国平均で70.9%にとどまっている。
いまSNS上では予防接種を受けさせない飼い主のこんな言葉が散見される。
「日本に狂犬病はないから」
たしかに日本では、1956年を最後に犬の狂犬病発生は確認されていない。「ないものを恐れる必要はない」という飼い主の言い分は果たして正しいのか?
狂犬病のメカニズムや日本国内で発生した場合のリスクについて、フィリピンなどでも狂犬病の研究や支援に関わっている大分大学医学部の西園晃教授は「狂犬病は基本的には狂犬病に感染した動物が動物や人を咬むことによって唾液中のウイルスが神経を通って脳の中で爆発的に増殖する。そうなるともう手遅れだ」と説明。
犬だけでなく猫やネズミ、キツネやアライグマなどあらゆる哺乳類が感染する狂犬病。人が感染した場合、一般的に1カ月から3カ月程度の潜伏期間を経て、発症した場合の致死率はほぼ100%とされている。
西園教授は「狂犬病のウイルスは脳に凶暴性を持たせる性質があるため、特に狼やジャッカルなど肉食性の強い動物は攻撃性が高まる。狂犬病の症状には『誘因もなく咬み付く』『突然走ってきて咬む』といったものがある」と解説した。
普段は大人しく従順なペットが狂犬病を発症すれば飼い主に咬みつく恐れも…。そんな恐怖のウイルスが日本国内に入ってくる可能性はあるのか?
西園教授は「例えば非合法な動物の輸入、コンテナなどに動物が迷入、といったケースは既に報告されている。そんな動物が野に放たれて動物を咬むことはないとは言えない」と述べた。
厳しい検疫が機能しており、隣国と地続きではない日本国内にウイルスが入り込む可能性は極めて低いと西園教授は話す。ただ、万が一の事態が起きた時にはどんなシナリオが考えられるのか?
「もし狂犬病が発覚した場合、『その犬の行動半径における犬はワクチン打っている証明をすぐ出してください』という話になる。そのため、既にワクチンを打って登録してる人は問題ないが、登録していない人はすぐワクチンを打つ必要がある。ワクチンの在庫の用意はしていると思うが、足りない可能性もある」(西園教授)
狂犬病が国内に侵入した場合に蔓延を防ぐ集団免疫に必要な接種率は7割とされているが、未登録の犬も含めると接種率は7割を下回るのではないかと西園教授は分析する。
西園教授は狂犬病が確認されている諸外国では野生動物に近づかない、咬まれたらすぐに病院に行くことが教育として浸透しているが、そうではない日本だからこそワクチン接種による備えが必要だと強調する。
「日本に狂犬病が入るリスクはかなり低い。だが入ってきた場合の恐怖はほぼ100%だ。海外では狂犬病は普通にあるものだという折り合いがある。日本人はリスクを知らないため、海外に行って動物に触ったら狂犬病に感染といった感じだ。そのため、接種率7割のラインは切りたくない」
※もし海外などで動物に咬まれたらすぐに病院に行くことで発症を防ぐワクチンを打ってもらえる。また、年に一度の狂犬病の予防接種は飼主の義務である。
(『ABEMAヒルズ』より)
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