4月の小学校入学まであと約1か月に迫るなか、毎年話題にあがるのが学校のトイレ問題。実は現在も和式トイレが残る公立小中学校は全国平均で約32%と、県によって半数以上が和式の地域もある。
保護者からは「“和式トイレが出来るようにしておいてください” がほんとに困る」「練習させるにも周りに和式トイレがないので困っています」(Xから)などの悲鳴があがっている。
一方で「洋式は便座に接触するから衛生的に嫌かも…」「和式は子どもの足腰が鍛えられるって聞いた」「改修工事にもそれなりのお金がかかるのでは?」(Xから)など和式を支持する声も。
普段から洋式に慣れているため、学校で和式トイレに行けない子どもたちがいることも課題だが、全て洋式にすべきなのか。『ABEMA Prime』では専門家と小児科医、学校のインフラ整備事情を知る前明石市長の泉房穂氏とともに考えた。
洋式化の最も高いハードルは多額の費用
学校のトイレ研究会事務局長の冨岡千花子氏は「我々が活動を始めた1996年当時は、和式が圧倒的に多かった。2023年9月に文部科学省から公表された洋式化率68.3%という最新の数値を見た時は正直やった!と思った」と述べた。
同研究会は、排便を我慢する児童が安心できる空間づくりに注力しており、冨岡氏は「学校でトイレを我慢している子に話を聞くと、“汚い”“臭い”と合わせて“和式だから”が最大の理由だ。改修後に感想を聞くと“洋式になって我慢することが減った”と答える子が非常に増える」と指摘。
また100%にできない理由を「公立小中学校は全国に3万校、大便器の数は約133万個ある。洋式化には予算が必要だ。工期も人手もかかり、整備が老朽化などのスピードに追いつかないような状況だ」と説明した。実際に大阪府交野市の例では、2024~2032年度にかけて行う小中11校のトイレ全面改修(洋式化など)に約30億円かかるとされている。
これに前明石市長の泉房穂氏は「学校施設整備費という名目で国から3分の1程度の補助が出る。これをどこに使うか。市長時代は4つあった。1つ目は耐震化、2つ目がエアコン、3つ目が障害者用のエレベーター、4つ目が洋式トイレだ。在任中は障害者エレベーターを優先し、耐震化やエアコン整備も全部やった。正直に言うと、洋式トイレの優先度は4番目だった」と言及。
明石市の洋式化率は61.4%と全国平均を下回るが、「耐震化は命に関わるし、エアコンも暑いと授業ができない。エレベーターは議論が割れるが、私は障害者福祉に対する思い入れが強く、優先したい意向があった」と実情を明かした。
そのうえで「結局、国が予算をつければできる。耐震化も国がキャンペーンを張って一気に広がった。エアコンもそうだ。国が洋式トイレ化の予算を増やせば整備は一気に進む。学校施設整備費の予算で洋式トイレ化を重点化すると決め、国が3分の1補助を2分の1に上げる。すると自治体負担が減って一気に広がる」との見方を示した。
改修でスッキリ? 学校トイレ の「5K」問題
学校トイレは、“汚い”“臭い”“暗い”“怖い”“壊れている”の頭文字を取った5Kが根強く残る点も問題だ。
冨岡氏は「5Kの中で一番問題視されているのが、頭の2つ“汚い”と“臭い”。我々が洋式と和式の便器周りの細菌数を比較した際、一番問題だったのは床だ」と指摘。
「和式は用を足す時に尿が飛び散りやすく、残った汚れをきれいにしようとホースで水を撒いて掃除する学校が多い。しかし、濡れた状態が長く続くと細菌が増殖する。実際に菌を採取して比較したら、洋式便器周りを1とした場合、和式便器の大腸菌数は164倍だった。
それをスリッパで踏んで、外に持ち出していく。下手するとそれが廊下から教室まで持ち出され、子どもたちが遊びながら、手で触るリスクもある。和式便器を残すことは、感染リスクを高めることだと多くの人に知ってもらいたい」と述べた。
和式の方が排便しやすい? 小児科医「エビデンスない」
一方、文部科学省は「公共施設で和便器の使用が一定程度ある中で、教育上の観点から和式を残す必要性がある」、「衛生面から便座に触れる洋式を望まない」との学校設置者の意見をあげ、和式便器が残る理由を説明している。
しかし、小児科医・新生児科医の今西洋介氏は「和式と洋式の研究はあるが、排便のしづらさに関するまとまったエビデンス・統一の見解は出されていない。“和式が足腰を鍛える”という論はもってのほかだ」と言及。
また、日本トイレ研究所の調査では「7日間のうち排便があった日数=2日以下」と答えた割合が9.0%、「7日間のうち硬い便が出た回数=2回以上」と答えた割合が17.8%で、「どちらか、または両方に該当する児童」は26.3%に達し、4人に1人が便秘疑いとのデータもある。
今西医師は「今、小児医療現場では小児の便秘が注目されている。例えば和式を使ったことがない小学生が学校のトイレで嫌な思いをして、便秘が悪化したり、便秘を発症したりするケースもある。便秘を繰り返すと、結腸が長くなってしまい、悪循環を繰り返すことがある。子どもたちにとって、排便環境によるストレスは大人が想像する以上に大きいと認識している。
予算があれば洋式にした方がいい。和式便器を見たことがない子は多く、トイレトレーニングで便秘症を克服した子が“小学校1年生の壁”で再発するケースもある」と指摘した。
災害時にも重要な洋式化 整備は進むか
また、冨岡氏は「元旦に能登半島地震があったが、2016年に起きた熊本地震の避難所でアンケートをとった際、不便だったことの1位がトイレだった。和式トイレを使えない高齢者も大勢いるので、避難所生活ができなくなってしまう。内閣府から避難所でトイレをいくつ用意するかに関するガイドラインが出ているが、和式便器はカウントされない。今、文科省が旗振りをして、避難所の設備として学校の洋式トイレを増やそう、バリアフリートイレを増やそうという動きが出ている」と、災害時にも洋式化が意義を持つと説明。
今西医師も「子どもたちが排便を避けてしまうことを、専門用語で“排便忌避”と言い、この状態になると便秘は悪化する。トイレの環境整備は重要だ」との見方を示した。
泉元市長は今後について「日本は教育予算が極端に少ない。他国並みの比率で予算をつければ洋式トイレの整備も少人数学級、奨学金の給付もできる。世論の高まりで国が方針転換するケースはよくある。自分が市長に就任した直後、“エアコンを付けよう”と一気に世論が高まり、国が音頭をとったように、トイレの洋式化も世論が高まれば動くのではないか。しかもエアコンとは事情が異なり、10のうち6〜7が洋式で、残りは和式でも構わない」と述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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