店側の時間と精神を削るカスタマーハラスメント。東京都はカスハラを防ぐための条例制定に向け、舵を切り始めた。制定されれば全国初となる。
顧客が企業や店などに対し、過剰な要求や不当な言いがかりをつけるカスタマーハラスメント、通称カスハラ。
2020年にUAゼンセンが行った調査では56.7%の人がカスハラの被害を受けたことがあると回答した。そんなカスハラの事例を見ていく。
事例1:「特定の人に電話をかけると雑音が入る」とFAX機器を持ち込んできた客。その場では症状が出なかったため、対応できないと伝えると客は納得ができず押し問答になり、いきなりビンタした。
事例2:「1週間後でも食べられるのになぜ消費期限を延ばさないの?」と消費期限が明日までの商品に対して期限を延ばすようクレームが入った。店員は健康被害が出る可能性を説明したが客はおよそ1時間もの間、クレームを入れ続けた。
事例3:新型コロナが流行し、マスクの品切れ状態が続いていた時に店にやってきた客。マスクが無いことに気付くと「つけているマスクをよこせ」と店員のつけているマスクを要求。店員は恐怖と気持ち悪さを感じたという。
事例4:「マスクをしていない客を今すぐ追い出せ!」と声を上げる客に対し、店員は「あくまで協力してもらう形で案内をしている」と伝えるも客の怒りは収まらず「お前たちは人殺し!犯罪者!」罵倒された。
そんな中、東京都は全国発のカスハラ防止条例を制定する方針を固めた。多様な業界に対応できるようにガイドラインを設け、早い施行を目指すとみられている。
カスハラを受けた人の調査によると、「生活に変化があり」と答えた人は76.4%、「出勤が憂鬱に」「心身に不調」「仕事に集中できなくなった」「眠れなくなった」などの症状もあるという。
横行するカスハラについて明星大学心理学部教授で臨床心理士の藤井靖氏は「イヤな思いをして不安が強くなったり、職場に行きたくなくなるケースはまだマシなほうで、深刻になるとカスハラが原因で退職に至ったり、自ら死を選ぶような精神状態になるリスクがある。それほど重大な問題だ」と警鐘を鳴らした。
東京都の条例では現在のところ罰則を設けない方針だという。この点について藤井氏は「罰則を設けることで冤罪の問題が生じるリスクが高くなるという一面もある。特にカスハラに関しては、言動やレベルの明確な基準を設けることが難しいという懸念もある」とした上で「“条例がある”という事実によって『カスハラは問題で、条例違反だ』『やってはいけない』という啓発にもつながると共に、相談しやすくなる材料になるだろう。実際現状では、カスハラを受けても相談せずに抱え込んでしまう人が2〜3割いるといわれている」と指摘した。
■カスハラ対応で必要なこと
カスハラへの対応について藤井氏は4つの方法を紹介した。
カスハラ対応1:ディスページング
「過剰な要求や不当な言いがかりをつけるような相手のペースに合わせていると、どんどんヒートアップする恐れがあるため、話すトーン・ペース・声の質を合わせない、あるいは一定の物理的な距離を取ることが効果的だ。こうした相手と逆の方向を選択する“反同調行動”に対し『かえって逆効果では?』と思われるかもしれないが、相手が引いているにもかかわらず、怒り続けることは実は大変な作業だ。『薪をくべなければ、いずれ落ち着いていく』、これが原則だ」
カスハラ対応2:メタ認知を効かす
「これは一言でいうと、自分と相手を俯瞰して見るということだ。『お客様の立場になって考えてあげないと…』と思う方もいると思うが、そもそもカスハラ的な言動の人とはまともなコミュニケーションは成立しない。誤解を恐れずに言えば、少し上から目線で『この人はこのパターンだな』『今、何分経ったな』などと引いて考えることが有効だ」
カスハラ対応3:シェアリング
「『今日こんなことがあったよ』『こんなお客さんがいた』などと、事実と感情をきちんと言葉に出して同僚・上司に共有することが大切だ。もう1つは物理的・時間的なシェアだ。例えば長時間にわたってクレームが続くケースにおいては時間あるいは日ごとに担当者を変えた方がいい。一人に集中してしまっては心理的にも抱え込んでしまうリスクがある」
カスハラ対応4:記録をする
「これは状況や職場環境次第では難しい場合もあるだろうが、できれば具体的な履歴を証拠として残したほうがいい。可能であれば、きちんと音声(あるいは監視カメラなどの動画)の記録を取る、メモにして残すなどして、保全した方がいい」
(『ABEMAヒルズ』より)
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