22日、ホストクラブの客だった女性に「ムショ(刑務所)行きになるよ」などと威圧し売掛金を取り立てたとして、歌舞伎町のホストの男が逮捕された。
東京都のぼったくり防止条例違反が売掛金の取り立てに適用されたのは警視庁初とのことだが、これは問題解決のための大きな一歩となるのか? テレビ朝日社会部 阿部佳南記者に話を聞いた。
━━そもそも売掛金とはどういうものか?
「簡単に言うと『つけ払い』だ。ただし、これはあくまでホストと客との『個人間での借金』という扱いだ。ホストクラブとしては売掛金に関しては肯定も否定もしない立場で、ホストが客の料金を立て替えているためホストクラブへの実害はなく、実態として見て見ぬふりをしている店舗も多く存在している。
つまり返済がない場合はホスト個人が損をする仕組み。実際に逮捕されたホストのSNSのメッセージ記録には、『2日以内に返済がないと大変なことになる』といった趣旨の切迫感のあるやり取りが残されていた。何とかして売掛金を返してもらうよう躍起になっているという現状がある」
━━売掛金の問題点とは?
「個人の借金という扱いであるため、売掛金そのものに違法性はない。問題は女性客がどう考えても払えないような金額を分かっていながら請求すること、そして女性に対して無理な労働や売春をさせることだ」
━━東京都ぼったくり防止条例とは?
「正式名称は『性風俗営業等に係る不当な勧誘、料金の取立て等及び性関連禁止営業への場所の提供の規制に関する条例』であり、東京都で定められている条例で、不当な料金の取立て行為などを禁止している。罰則としては6カ月の懲役または50万円以下の罰金。具体的にはホストクラブの客などに対し、荒々しい言動や相手が迷惑するような方法を用いて料金を取り立てることなどを禁止している。
一般的に『ぼったくり』と聞くと法外な料金を請求するというイメージがあるが、この条例は『これ以上の金額は違法』などと定めるものではなく、あくまで無理で乱暴な取り立てなどを規制する条例だ」
━━「荒々しい言動」と聞くと抽象的な印象も受けるが?
「たしかに条例として定める文章は抽象的にも感じられ、具体的なガイドラインがないため、解釈が難しいという見方もできる。他方で複雑な事案にも幅広さを応用して対処することができるというメリットがあると話す捜査員もいる。
一つひとつの事件で脅迫の文言や手口は違う。『これを言ったら違法』という法律では悪質な事案でも条例からこぼれてしまうケースも生じ得るが、現在の条例ならば捜査員がその都度工夫して条例を適用することで、一つでも多くの悪質事案に対処できるのだ」
━━経営法人も摘発されたが、この意味は?
「これは『売掛金問題はホスト個人だけの問題ではない』というメッセージだと捜査関係者は話している。売掛金はあくまでホストと客との個人的なやり取りで、仮に高額な請求があってもホストクラブとしては見て見ぬふりをしてきた店舗も多くあるが今回の事案では、警視庁はホストクラブの経営法人に対しても悪質な取り立てをしたという犯罪事実を固め、書類送検した。これにより、売掛金問題を見過ごそうとするホストクラブにも目を光らせることになり、運営側に対しても適切な運営をするようにというメッセージとなる」
━━今回ぼったくり防止条例が適用されたが、これまではどうやってホスト摘発してきたのか?
「これまでにもホストやホストクラブは逮捕・摘発はあったが、警視庁が『売掛金を威圧的に取り立てた』という容疑で逮捕したケースはなかった。これまでに適用されてきたのは『売春防止法』など。
『売春防止法』は売春させることなどを禁止する法律だが、適用された例として、高額な売掛金がある女性客に対して、返済させるためホストが売春して金を稼ぐように指示したという事案がある。歌舞伎町の大久保公園周辺では売春のための客待ち行為が問題となっているが、まさにそういった場所に行くように強要される事件も起きている。
これまで警視庁として逮捕したのは無理やり『売春させた』『性風俗店で働かせた』ことを取り締まるものであり、売掛金返済のために何らかの形で金を稼がせたことを摘発する形しかなかった。今回適用されたぼったくり防止条例は警視庁としては初めてで、捜査の幅を広げる一手になると捜査員は話している」
━━なぜこれまではこの条例が適用できなかった?
「今回の事件でぼったくり防止条例が適用できた大きな要因として、売掛金を飲食代金と立証できたことが挙げられる。つまり売掛金が単純な個人間の借金ではなく、ホストクラブで飲食したことにより発生したものだと位置づけることができた。そうすることで、ホストクラブを含む性風俗営業店に適用されるぼったくり防止条例を使って摘発できたのだ」
━━そもそも売掛金を禁止するなどできないのか?
「売掛金を禁止することはできない。売掛金はすぐにでも違法になるというものではない。高額な売掛金があってもそれがすぐに返済できればなんの問題もなく、そもそも楽しみにしてホストクラブに来ている女性も大勢いる。実際、地方から出てきたばかりで友人も少なく、新しいコミュニティを作るためにホストクラブに来たという女性もいる。通常の営業をしていればホストクラブの売掛金が問題になることもない。
問題なのは、返済のために女性が搾取されることにある。それに関しては東京都や警視庁は相談や支援、そして悪質なホストの摘発を行っている。
今回、ぼったくり防止条例違反として摘発されることは、ホスト個人もそうだが、経営側に見て見ぬふりをしてはならないということを訴えるメッセージともなっている」
━━捜査関係者はこの一手をどう考える?
「これまで警視庁として適用してこなかった条例が使えたのは、問題解決への大きな前進だと捜査関係者は話している。ただ同時に、今回は売掛金がホストクラブでの飲食代と立証できたからこそ摘発できたこともあり、事案によってはこの条例が適用できないことも考えられる。
また手口にしても、これまでは『返済のために売春行為をさせる』という悪質な事案に力を入れてきたが、ほかにも『無理やり消費者金融から金を借りさせる』や『何枚もクレジットカードを作らせ、クレジット払いさせる』といった売掛金を支払わせるやり方はまだまだあるという。とはいえ、適用できる条例や法律が増えることは今後の捜査に確実に生きると話していた」
(ABEMA/倍速ニュース)