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【映像】土屋さん親子のグループホーム生活の様子
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 土屋正己さん(45)幸子さん(40)夫妻。ともに中度の知的障害がある。入浴や食事などはある程度自立した生活を送ることができるが、文字の読み書きやお金の管理ができず、障害者専用のグループホームで他の入居者と暮らしている。

【映像】土屋さん親子のグループホーム生活の様子

 2人には軽度の知的障害がある娘のはるかさん(10)がいる。幸子さんは「私が仕事から帰ってくると“お風呂から出たー”とすごく喜ぶ。笑顔がすごくかわいい」と話す。

 共同通信の調査によると、20代以上の知的障害者のうち、5人に1人は結婚や出産について家族などから反対された経験があるという。またメディアが取り上げると、批判と合わせて「美談にするな」という声がつきまとう。彼らが子どもを持つのはいけないことなのか。『ABEMA Prime』で考えた。

■周囲からの反対…子どもができた喜びと子育てへの不安

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 土屋夫妻はともに中学の特別支援学級を卒業後に就職。約12年前に職場で出会い、幸子さんが29歳の時に妊娠が発覚した。正己さんは「障害を持っているから、“育てるのはちょっと難しいんじゃないか”と言われたけど、幸子さんがやっぱり産みたいと」と話す。

 頼りとなるグループホームにも壁がある。支援を受けながら共同生活を行う制度上、子どもがいることを想定しておらず、入居者は原則18歳以上。たとえ入居する夫婦の子どもでも同居が認められず、乳児院に預けることが多い。

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 そうした状況で2人が相談したのは、ホームを運営する社会福祉法人「上州水土舎」の理事長・金谷透氏だった。「周囲は反対したんだけれども、本人たちは“ぜひ産みたい”と涙で抵抗した。完全にルール違反だと分かっていたが、我々としては支援をしたい」。

 金谷氏は職員や世話人たちと会議を重ね、全面的なサポートを決意。彼らの協力を得て2013年、はるかさんが誕生した。保育園に預けるまでの1年半、24時間のケアが行われた。現在は定員4人のところに、はるかさんを加えた5人で生活。入居にかかるお金は夫婦の給料から支払われており、仕事に出かけている間、世話人が掃除や食事の準備を行う。

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 夫妻は十分な支援を受けていると言うが、子育てへの不安はある。「子どもが通学の時に“バカ”“死ね”と言われたことがあると、学校の先生に言われた」(幸子さん)、「いじめがあったり、子どもがちゃんと成長してくれるかが心配だ。知的障害のことは娘にまだ話していない」(正己さん)。

 とはいえ、娘の成長は大きな喜び・楽しみにもなっている。「大きくなっていろんなことができるようになってほしい」(幸子さん)、「“学校で工作を作ったよ”“鉄棒をやった”という話をよくしていて、やっぱり楽しい。自立してくれればいいが、その時になってみないとわからない。普通に育って結婚できたらいいなと思っている」(正己さん)との思いを明かした。

■大空氏「すべての出産は親のエゴ」「批判は個人ではなく社会福祉制度に向けられるべき」

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 子どもがいることで他の入居者への影響はないのか。金谷氏は「グループホームは非常に少人数で、疑似家族のような雰囲気がある。その中で子どもがいるのはむしろ良い潤滑油になっている」と説明。

 内閣府が実施した「障害者に関する世論調査」(2023年)によると、障害を理由とする差別や偏見が「ある」と88.5%が答えているが、金谷氏は「障害を持った人たちが子どもを産むのは普通のことだ」と述べる。「ただ、それをサポートする社会の側にない。我々は仕事として関わっているが、その体制をなんとか作れないか。それほどお金のかかる問題ではなく、すぐにでもできる」。

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 日本学術振興会特別研究員の延原稚枝氏は、障害者の子育て批判をなくすには「誰もが使える子育て支援の充実」が必要だと指摘。「核家族・共働き・ひとり親世帯など、親のみで子育てする世帯が増加したが、子育て支援は旧態依然。障害者だけ支援があることに疑問を持たれるのではないか」としている。

 NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「子どもを産むことはすべて親のエゴだと思っている。それは障害がない方・ある方に限らずみんなそうだ。そして、全ての人が誰かの助けを借りながら生きている中で、障害をお持ちの方だけに批判を向けるのは間違い。ただ、生まれた瞬間からヤングケアラーとしての人生がスタートしてしまうのも事実。そこは本来、子どもが親のケアをすることなく生きていけるような仕組みが必要で、批判は社会福祉制度に向けられるべきだ」との見方を示す。

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 金谷氏は「グループホームに入りたい人たちは一定数いて、いつもほぼ満杯。また、運営にも問題が多い。民間が老人施設をどんどん作っていたのが頭打ちになり、法人ではない人たちがグループホームに流れ込んでいる。そこで過当競争が起こるのはいいが、福祉的なサービスが見過ごされている。もう1つは、お金儲けで入ってくる人たちが多いこと。そのあたりが改善されないと、自立にはつながらない。障害者基礎年金では足りず、親御さんがお金を払ってグループホームで生活しているケースが非常に多い。貯金はほとんどできず、保険にも入れないので、本人たちの生活の質をトータルで考えてもらいたい」と訴えた。

(『ABEMA Prime』より)

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