国家公務員の総合職、いわゆる「キャリア官僚」の働き方が注目されている。大臣などの答弁資料づくりには「質問が多すぎて職員に負担がかかる」との指摘も出ていて、実際に国会対応ともなると、深夜残業や早朝出勤は当たり前。帰るどころか、寝る間もないこともあるという。こうした環境もあり、在職10年未満の若手官僚の退職数は増加傾向にある。
「やりがい搾取」とも言われるなかで、官僚を辞めさせないためにはどうすべきなのか。『ABEMA Prime』では、元官僚芸人らをゲストに招き、考えた。
■元官僚ら明かす“辞めた理由”
元官僚芸人まつもと氏は、京都市出身の45歳。京都大学大学院修了後、26歳で総務省へ入省し、財務省や内閣官房への出向を経て、35歳で退官した。その後はコンサル企業やベンチャー企業などを経験し、43歳でお笑いコンビ「イエスマン」を結成。会社員と芸人の二足のわらじで活動している。
総務省では「情報通信や放送の法律を作った。財務省では日本航空の再建計画を裏で作っていた」。霞ヶ関を去った理由は「一通り役所の中の仕事を見た。同じことをあと20年やると思った時、卒業して次の仕事に行こうと思った」という。
また、ブラックと言われる労働環境も「当然あった。それでもやりたい気持ちがあるから耐える」。しかし、「大きな組織は“歯車”と言うが、自分ができることは“スペアのネジ”くらいの存在だ。国の問題は大きく、関わることができるのはありがたいが、その中の自分はあまりにも小さい」と退官を決めた。
一方で元経産官僚で制度アナリストの宇佐美典也氏は「全然“ネジ感”はなかった。前任が居ない仕事で、新しい法律や制度、研究開発など大きなプロジェクトを任された。結果として、組織の中で外れた人間になったが、やりがいは感じていた。しかし政治主導が強まり、“この政治家に付いていきたいか”と疑問に思い、民主党政権時代に辞めることにした」と回顧した。
■やりがい搾取?「ブラック霞ヶ関」の実態
政治主導が強まることの弊害は何か。宇佐美氏は「政治主導が固まったのは安倍政権で、もともと官僚側にいた、組織を知り尽くした人が仕組みを作るので実効的だった。逆にいうと、逆うことができない。厚労省のデータ改ざんが典型的だが、それまではデータを取って政策を作ってきたが、官邸のしたいことに合わせてデータを作る圧力が強まった」とした。環境の変化によって「“これは俺たちの仕事か”と現場の反発は大きかったが、戦った人は飛ばされる。有名な厚労省のエースは、主張としては勝ったが、翌年にアゼルバイジャンに飛ばされた」と続けた。
まつもと氏も「直属の上司だった課長も、大臣ともめて更迭された。人生の主導権を自分で握れないのが、辞める根本的な原因なのでは」と指摘する。さらに「ベースとして“ブラックだよね”と。毎日の残業がだんだん耐えられなくなり、“こんなはずじゃなかった”というのは結構聞く」という。
一方で「霞ヶ関も悪い。忙しいと言っているが、暇な部署・時期もある。一応忙しいところに人を回してはいるが、民間と比べると圧倒的にやりこみが足りない。もっとやれよと思う」と意見した。
■「書いた法律が六法全書に載った時は変えがたい快感」
ブラックと言われてもなお、官僚になるメリットはあるのか。宇佐美氏は「退職しても12年間生き延びて、当時より稼げている。基礎能力を作るにはいい職場。本当に若手が不満を抱いているかというと、そうとも限らない。自分の書いた法律が、初めて六法に載ったとき、仕事を残したと、代えがたい快感があった」と振り返った。
それでも若手官僚の退職が続く理由は、「政治主導なのに“政治家についていきたい”と思わせられなくなっている」と考察する。「政治家の意見に乗る人はやりがいが増えるが、逆に納得いかないと、“なぜ言うこと聞かないといけないの“となる。むしろ政治家の問題で、国会議員の権力が増えても、それに見合った質の向上があるかは疑問だ」とした。
まつもと氏は官僚になった利点を「国家の動きがわかった。あとは、芸人になっても“官僚でした”と自己紹介に活用していること」と語る。また、官僚から芸人への“異例の転身”で気づくこともあるという。「“何歳になったら”とレールが見えるのが嫌だったが、今は3年後の自分もわからない。レールがちゃんと敷かれている重みを感じた」と語った。
(『ABEMA Prime』より)
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