「第96回アカデミー賞授賞式」でのある行為が「アジア人を軽視している」と物議を醸している。助演男優賞を獲得したロバート・ダウニー・Jr.が登壇した際、プレゼンターで去年の受賞者のキー・ホイ・クァンがオスカー像を渡そうとしたが、受け取る時に無視したようにも見えるのだ。その後の舞台裏では、2人が握手を交わす姿もあったが、Xには「無意識なんだろうな。差別が当たり前すぎて」「無礼にも見えるけど、これだけで差別と言える?」などさまざまな声が。
【映像】降壇後に談笑・撮影するロバート・ダウニー・Jr.とキー・ホイ・クァン
また、主演女優賞を受賞したエマ・ストーンがプレゼンターのミシェル・ヨーを無視したようにも見え、同様の声があがった。その後、ミシェル・ヨー自身が、隣にいたジェニファー・ローレンスとともにエマ・ストーンを祝福するため誘導したのが混乱を生んでしまった、と発信した。
近年は多様性への配慮が選考基準に盛り込まれたアカデミー賞だが、実態はどうなのか。数多くのハリウッド映画に出演、自らも映画の制作を手がける俳優の松崎悠希氏らとともに、『ABEMA Prime』で議論した。
■「“ハリウッドは多様な世界だ”と描こうとすると、他国には一元的な姿を求める」
松崎氏は、アジア人軽視だとしても驚きはなかったと話す。「アカデミー賞は“白人の映画人のお祭り”という印象が非常に強い。アジア人に対するリスペクトの欠如から起こっていることだったとしても、ハリウッドでは全く珍しくない。僕自身、ハリウッドで20年活動しているが、差別なんて日常だった」。
多文化共生教育が専門の渡辺雅之・大東文化大学教授は「今回の件が即時にネットで拡散され、社会的な問題になったことに大きな意義を感じる。松崎さんが長い間感じていたけれども取り上げられなかったものが、アカデミー賞という公の舞台で起こった」と指摘する。
今回から、ジェンダー、人種・民族、障害などに配慮して出演者や制作スタッフ、インターンを選定・雇用する多様性の新基準が「作品賞」に適用された。松崎氏は「ハリウッドで多様性が騒がれるようになったのはここ数年で、それまでの映画というのものは“白人が作る白人のためのメディア”だった。そこで生まれてきた伝統、イメージ、リスペクト、そして白人同士のつながりがある。アジア系俳優の歴史は数年しかなく、どんなにすばらしい俳優でもつながりがないためにスルーされてしまう。そういう構造的な差別になっている」と述べる。
また、出演作をめぐり露骨な対応もあったという。「2009年に公開された映画『ピンク・パンサー2』でメインキャストの1人を演じているのだが、メインビジュアルポスターで僕だけが排除された。写真も撮ったのにだ。おそらく、“アジア人だし外してもいい”“別に問題にならない”と思われたのだろう。多様性は見せかけで、根源にあるものは変わらない」と苦言を呈した。
さらに、“日本人はこうあるべき”というステレオタイプも経験したそうだ。「ハリウッドの日本人役のキャスティングを手伝ったが、ミックスルーツの人はオーディションに呼ばなかったり、応募があっても書類選考で落としたり、全員除外される。彼らが求めている“日本人像”に当てはまらないからだ。“ハリウッドは多様でインクルーシブな世界だ”と描きたい一方で、他の国には一元的な、人種的にも多様性が一切ない姿を描きたくなる」。
■意図しない差別も積み重ねに 松崎氏「怒っていい」
思い込みや偏見によって無自覚に相手を傷つけることを「マイクロアグレッション(小さな攻撃)」という。その中には、外国人や海外ルーツの日本人に対する「日本語ペラペラですね」「日本人より日本人らしい」なども含まれる。
渡辺氏は「ほとんどの差別は意図のある・なしに関係なく起こる。“気にしすぎだよ”という言葉は言う側のもので、受けてきた側は気にしてしまう。ロバート・ダウニー・Jrさんの行為も、意図していたかどうかは別として、やはりアジア系俳優を明らかに軽視したふるまいには見える。自分がどう見られるか、に対する知見は持つべきだった」との見方を示す。
また、マイクロアグレッションは「いきなり人を殺したりしない。水がコップの中に溜まっていくようなもの」だとし、「“日本語上手だね。どこから来たの?”と毎日聞かれると、“自分はやっぱりよそ者なんだな”という感覚になり、自己肯定感を失っていく。それを取り戻す方法も同じで、1滴1滴積み重ねていくことだ。差別や偏見をなくすには、自分がかけているサングラスはすべてが見えている普遍的なものなのか?と時々外してみること。そして、“あのふるまいはダメだ”と教えてくれる他者がいるかどうか。自分が身の回りに対等で平等な関係性を持っていないと、そういった人は出てこない」と述べた。
松崎氏が製作・脚本・出演する『MOSAIC STREET - Proof of Concept Scene』という映画がある。「個人で作り、XやYouTubeで無料で公開している。主人公は全員日本人で、全員がマイノリティだが、それはストーリーに一切影響を与えず、見終わった後に気づくようになっている。こういうドラマが日本から生まれるようになると、見ている人たちもマイノリティであることを特別視しないようになる。つまり人種的に多様であっても驚かなくなる」と意図を明かす。
また、アジア人軽視の実態を発信する活動を通して、「ここ2年くらいでようやく、ハリウッドが描く日本人像に少し多様化が生まれてきている」と感じているそうだ。
そうした中で思うのが「怒っていい」ということだという。「まずは、“そこに問題がある”とわかることが1つ。もう1つ、特に日本人はなめられている。ハリウッドの超大物プロデューサーが“中国や韓国市場は描写に気をつけたほうがいい。でも、日本は文句言わないしボイコットしないし、映画の売上に影響しないからあまり配慮する必要はないね”と言っていたりする。それは怒ってよくて、“これはおかしい”と教えてあげないとハリウッドは絶対に気づかない」と主張した。(『ABEMA Prime』より)
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