【写真・画像】「“満額”と出る度に背筋が寒くなった」「人件費の転嫁は理解されない」 大企業の賃上げの波は下請けまで届かない? 1枚目
【映像】ボードに並ぶ「満額」の文字
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 春闘の集中回答日だった13日、大手企業では大幅な賃上げ回答が相次いだ。明るい兆しを伝える報道だが、一方で、中小・小規模事業者はいまだ厳しい状況が続いているとの声があがる。中小企業庁の取引調査員「下請けGメン」の調査では、大企業との交渉で賃上げを理由とした値上げは受け入れてもらえない風潮が根強いという。連合の芳野友子会長は、「労務費を含む価格転嫁がきちんとできるかどうか」だと話している。

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 大企業の賃上げの波は中小・下請け事業者に届くのか。『ABEMA Prime』で企業経営の当事者とともに考えた。

■「人件費の価格転嫁は理解されない」

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 中小企業家同友会全国協議会会長で墨田区の缶パーツ製造販売「ヒロハマ」会長の廣濵泰久氏は「“満額”と出ていく度に背筋が寒くなる感じがある。中小・零細で景気が良いという情報は全くない。大手にならってある程度賃上げをしないと人は来ないだろう、という危機感がさらに高まった」とコメント。

 ネジのメッキ加工会社「小林鍍金工業」3代目社長の小林直樹氏は「賃金が上がっているという数字上の話では非常に好ましいと思う」とする一方で、「私たちのような小さいところに波及している実感は全くない。大手は初任給レベルでも桁違いの数字を提示している。人材確保のためという名目だが、中小零細・町工場レベルではある程度の水準にしても魅力の部分で難しく、選り好みはできない。ただ、物価がここまで上がると社員たちの生活もかかっているので、業績に関係なく支払わざるを得ない状況だ」と話す。

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 小林鍍金工業は役員4人、従業員4人の計8人で、手取りは20代で20万円未満、40代で30万円未満。2年続けて賃上げし、今年は5~10%上げる予定だという。ローコストを求められる業種で、賃上げ分の価格転嫁は難しく、役員報酬を削って対応するとしている。

 価格転嫁の現状について、「ネジメーカーや商社などお客さんは門戸を開いてくれていて、交渉の窓口等も用意されている。こちらの希望する金額を提示して、“検討する”と。後は結果次第。需給関係で値段が決まるのがやはり真っ当だが、“割に合わない”と断って仕事が半分になるなら、会社は淘汰されていくしかない」と厳しさを口にする。

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 また、廣濵氏は「昨年の資材価格の高騰は、価格転嫁せざるを得ないというのはみんなわかっていた。ところが今年上がっているのは人件費だけで、その分の見積もりを持っていくと“なにそれ?”となる」とした。

■下請け構造の中“企業努力”どこまで求める?

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 公正取引委員会は2022年、価格転嫁の協議に応じないか、回答していない13の企業・団体を公表して是正を促すなど、“下請けいじめ”に動き出している。一方で、構造的な問題は根深いと小林氏は話す。

「ビジネスモデルが変わってきている。戦後の経済成長期は団塊世代が消費していたので、作るものも非常に多かった。その中でコストを下げて処理してきたが、今の時代はそこまでの数量は売れない。そうなると世界に売らざるを得ないが、直接出ていくのは難しく、上のメーカーなどと協力する必要がある。我々は現状、弱者連合に近いかたちで、日本の衰退が想像以上に進んでいるところになっていると思う」

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 廣濵氏は「本当に頑張って成果を出している会社も、まだまだ努力が足りない会社もある」とした上で、「中小企業は生産性が悪い」という声には疑問を呈する。

「効率と収入で両方考えなければいけないことがある。収入はどれだけ価格に対する競争力を持てる会社・事業にするのか、新しいモノを作っていくかだが、下請け構造の下になっていくほど厳しい。地方に行けばお客さんは少ない。しかし、そのお店・会社がないと困ってしまう、という中でやっている中小企業もある。もう1つの効率面だが、そもそも効率を上げることが難しい仕事しか回ってこない。面倒くさい、人手がかかるから下請けにやらせようという構造はある」

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 その上で、「経団連が“社会的責務として賃上げする”と言ったのは、けっこう重い話。大企業が抱えている子会社やその下の取引先も含めると、影響力は大きい。中小企業、エッセンシャルワーカーは大事だ、ということがわかってきた中で、きちんとした工賃、賃金を払うことになれば、それぞれの良いところを一番発揮できる社会になると思う。今はその転換点ではないか」と述べた。

 小林氏は「自動車や保育、介護といった業界は低賃金だと炎上して変化が訪れたように、我々も何かきっかけになればなと思う。ニュースになるのは大手の話ばかりで、小さいところの情報はなかなか出てこない。しかし、地方銀行などは情報をたくさん持っていると思うので、そういった生の声を表に出すことで、多少なりとも議論が進んでいってほしい」と訴えた。(『ABEMA Prime』より)

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