日本財団とドワンゴが共同で設立する「ZEN大学」。日本初の本格的なオンライン大学で去年、文部科学省に設置認可を申請し、2025年4月の開校に向け準備を進めている。実社会で役に立つ総合力を身につけることが大きなコンセプトで、初年度の定員は5000人を想定。1年当たりの授業料は38万円と、大学としてはかなり安い価格設定だ。
注目したいのが、リアル授業・偏差値・国からの補助金がないことだ。ドワンゴ顧問の川上量生氏に『ABEMA Prime』で思いを聞いた。
■「ネット上でもコミュニケーションできる」
設立の目的について、川上氏は「通信制高校の生徒はすごく増えている。大きく変わったのは、N高ができる前は全日制をドロップアウトした人が通信制に行っていたが、今は普通に目指す所になったこと。ただ、これが“通信制の大学に行こう”という現象としては起こっていない。その選択肢を作るために、ZEN大学を始めたい」と述べる。
特徴の1つは、完全オンラインの授業だ。「N高・S高はスクーリングを年1回やっているし、すごく重要だと思っている。ただ、ZEN大学でやろうとすると、校舎など必要な設備を整えるために200億円ぐらいはかかってしまうので、完全オンラインにした」と説明。
「ネット上でもコミュニケーションはできる」というのが川上氏の考えだ。「N高では、Slack上で出会って、付き合い、会わないまま別れるということもある」「今の小学生で切実な問題はLINE。どうコミュニケーションをとり、いじめられないように立ち回るかの方が重要なスキルだ」とする。
さらに、通信制のN高生が秀でている点について、「模試の平均偏差値は50を切るが、国語だけは50を超える。それは文字コミュニケーションをしているからだ。N高に入るとみんな自然に国語力が上がっていく」と語った。
ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は「N高生のインターンの子と仕事をしたことがあるが、優秀だった。ネット上で資料を送り、直接の言葉や熱意なしに、大人を納得させるための方法が分かっている。N高は部活にお金を出し、社会で何かをやるということもやっている。彼らは非常にコミュニケーション能力が高い」と明かした。
■偏差値なし「受験戦争は昔より悪化している」
入学選考は「事実上ほぼない」という。川上氏は「本当に必要な勉強をする学校を作りたい。N高は、受験勉強をしたい人はやってもいいし、そうではない人は別のことをやってもいい。それを応援する学校だ」と説明。
専門的な内容と一般教養を学ぶバランスはどう考えるか。「大学制度が大きく変わり、今は総合入試が増えている。一発芸とも揶揄されるが、思考力やそれまでの実績で勝負するわけだ。N高の進学実績がすごく上がっているが、その原動力は一流大学の総合入試にバンバン合格していることだ。また、みんなで協力するプロジェクト学習が海外では進んでいるが、日本はこれまでなかった。N高では通学コースだけだが、それが授業の中心になっている」と述べる。
今の受験制度に対する違和感もある。「受験戦争は昔より悪化している。僕が高校生だった35年ぐらい前は、受験勉強を始めるのは高3の夏で1浪する、私立校だと高2の夏から勉強して現役で入る、みたいなことが普通だった。今は、小学校からSAPIXに通ってないと一流大学に入れない。優秀な子を選ぶためだけのスクリーニングに10年以上もかけるのはおかしい」。
■「補助金をもらって安定経営していたら競争原理が働かない」
では、補助金なしで運営可能なのか。川上氏は「校舎がないし、オンラインなので先生1人が教えられる生徒が多く、コストを下げられる」とした上で、「そもそも通信制大学はあまり補助金をもらえない。学費38万円に対して、年間で1~2万円だ。わずかな金額のために文科省からいろいろ言われるよりは、自由にやったほうがいい」と答えた。
ひろゆき氏は「みんな“大卒”が欲しいのでFラン大学でも行く。しかし、ZEN大学が、学費も安いし聞いたこともある、となれば行く人は多いだろう。優秀な人を輩出すれば良いイメージもつく。一方で、文科省が大学を潰さないようにしているので、子どもが減っていってもFラン大学は残っていく。ZEN大学がどんどん生徒を集めて地方の大学が潰れるような状況になれば、文科省は牙をむいてくるのでは?」と懸念を示す。
これに川上氏は「大学は自治権がすごく認められている。例えば、飛び級の制度や、高校でも単位を取れたりする制度は何十年も前からあるが、どの大学も面倒だから、と対応していない。つまり、文科省が新しいことをやろうと思っても、民間側の独立性が強すぎる。そして、補助金をもらって経営が安定しているので、競争原理が働かない」との見方を示した。(『ABEMA Prime』より)
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