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【映像】“江戸しぐさ”の矛盾 あなたは気づける?
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 江戸時代の人々のふるまいとして、教科書にも掲載された「江戸しぐさ」。10年前にその存在を否定する声が歴史家などから相次いだが、現在も教育現場でたびたび登場することに、疑問の声が上がっている。

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 「江戸しぐさ」とは、江戸の町で人々が互いに気持ちよく暮らすための知恵だということで、次のようなものがあるという。

 傘かしげ=傘をさした人同士がすれ違う時に、相手をぬらさないよう互いの傘を傾けること。

 こぶしうかせ=一人でも多くの人が座れるよう、みんなが少しずつ腰を上げて場所をつくること。

 江戸しぐさはかつて複数の教科書で紹介されたほか、現在も文科省が教員向けに「道徳教育アーカイブ」として公開している教材の1つ、「私たちの道徳」に掲載されている。

 これに対し、歴史家の原田実氏は10年前、著書『江戸しぐさの正体』(星海社新書)の中で、江戸しぐさのさまざまな設定が江戸時代にそぐわないことなどから「偽史である」と指摘。教科書からは江戸しぐさの記載が消えた。

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 しかし、『ABEMAヒルズ』が調べたところ、今でも実際に小中学校で授業の中で取り上げられたり、図書館で子ども向けの文化・歴史図鑑として紹介されていたほか、道徳の教材として自治体の教育委員会が活用している事例があった。

 原田氏も「いまだに学級便りや校長先生の挨拶などでも、江戸しぐさは使われ続けている。彼ら彼女らがまだ情報をアップデートできていないのだ」と懸念を示す。

 江戸しぐさはどのような経緯をたどって今に伝わってきたのか。普及活動を行っているNPO法人「日本のこころ・江戸しぐさ」によると、江戸の商人たちが築き上げたルールが起源であったものの、町人は書き物が許されていなかったため口伝えで伝えられ、昭和の後半にその伝承者から聞き書きしたのが今の形になったという。

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 つまり、「当時の史料はない」ということになるのだが、この点について江戸時代史が専攻の三重大学・高尾善希准教授は「証拠も史料もない。私は10年間、東京都公文書館で史料編纂をしていたが、江戸しぐさに類するような思想も、それを支える団体も見なかった。加えて、江戸時代を研究する研究者仲間からもそんな話は出てこず、むしろ彼らは『江戸しぐさは後から知った。そういったものが生まれていると世の人から教えてもらった』と話すことからも分かるように『存在しない』のだ」と指摘した。

 NPO法人「日本のこころ・江戸しぐさ」の代表が書いた『江戸の繁盛しぐさ』では、史料が残されていなかった理由の1つに「江戸っ子狩り」が挙げられている。明治政府が江戸のカラーを消すため、「江戸しぐさ」を目安に江戸っ子狩りを行ったこと、それにより多くの血が流れて全国各地に江戸っ子が逃げた、という旨が記載されている。

 これに対し高尾教授は「江戸っ子狩りは、ない。そもそも一般庶民を虐殺するという発想自体ない。『官軍が弾圧したから残ってない』という言い分は残っていないことを言い訳として使っているだけだ。我々歴史研究者は残ったものを通じて歴史を構築する。最初から歴史の捉え方、発想が違うと言わざるを得ない」と説明した。

 江戸時代に実在したかについて、NPO法人「日本のこころ・江戸しぐさ」は、「事実として認定されるような一級資料は見つかっていない」として、『ABEMAヒルズ』に次のように回答している。

 「江戸しぐさは、口伝として伝えられたものを聞き書きしたものであると解釈しており、検証等はしていない。学問として系統立てているものでもなく、今の世の中で人々の関わりに役立てられることがあれば良いと考えており、それ以上のことはない。また、何事にも人それぞれ色々な考え方や捉え方があることも十分承知しており、他の意見を頭から否定しない」

 江戸しぐさが現在も教育現場に残っていることについて、歴史家の原田実氏は「少なくとも教育現場からは、撤退させるべきだ。江戸しぐさは現代人のマナーとして実用的な面もあるが、それは現代人が作ったものだから。個人として江戸しぐさを大事にする人がいてもおかしくないが、教育現場で、事実として教えるべきではない」と強調した。

 また、ウェブなどで「江戸しぐさ」の存在を否定する情報に接した際に、混乱を引き起こしかねない点も指摘した。

 「この状況の中で教育者が現場で使い続けると、ウェブで情報を得られる世代の生徒にとっては『教育現場が信用できないという実例』になってしまう。これはかなり由々しき事態だ」

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 江戸しぐさについてかつて取材をしていたノンフィクションライターの石戸諭氏は「教育現場で江戸しぐさを用いている人は『歴史的根拠がないものを広めてやろう』などといった悪気があるわけではなく、ちょっといい話、あるいはマナーを大切にしましょういう実例として使うケースがほとんどだと思う。マナーを教えること自体は否定しないが、これらを伝えるのに典型的な偽史である江戸しぐさを使う理由はない」と指摘した。

 『ABEMAヒルズ』は現在も文科省が教員向けに「道徳教育アーカイブ」として公開している教材の1つ、「私たちの道徳」に掲載されている点などについて文科省に確認し、以下のようなコメントを得た。

 「歴史的事実かどうかの調査を行ったわけではない。史実として教えるわけではなく、子どもたちに礼儀やマナーについて考えてもらうきっかけとして掲載した」「採用した時には捏造という意見があることは承知していなかったのではないか」「2018年度の道徳教科化に伴い冊子での配布は終了した」「(「道徳教育アーカイブ」には)資料として掲載。史実かどうか争いのある点については、訂正・追記の予定は現状ない」

 これに対し石戸氏は「訂正・追記を行う必要がある。どういう経緯で江戸しぐさが教育現場に入り込んできたのか、 どういう経緯で文科省が採用し、冊子まででき、教育アーカイブまで残すようにしたのか。詳細に検証した結果を公表してほしい。事実でなくても道徳教育で使うのにふさわしい考えもありえるが、それなら日本にはもっと質が良い物語がいくらでもある。江戸しぐさのようにそれ自体が事実ではない偽史を積極的に使う言い訳にはならない。今からでも文科省の責任で調査に乗り出してほしい」と述べた。
(『ABEMAヒルズ』より)

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