大川原化工機の元顧問・相嶋静夫さん(72)の遺族が、拘留中に適切な検査や治療を受けられなかったとして国に損害賠償を求めたが、東京地裁は遺族の訴えを退けた。
大川原化工機事件とは、生物兵器を作れる機械を無断で輸出したなどとして、外為法違反で社長ら3人が逮捕、起訴された。しかしその後、検察が起訴を取り消し、無実が明らかになった異例の冤罪事件だ。
昨年末の判決では捜査に違法があったとして、国および東京都に対し約1億6000万円の賠償が命じられている。
およそ11ヵ月にわたる拘束、いわゆる「人質司法」の犠牲者となったのが、逮捕され拘留中にがんが発覚し、無実の証明の声を聞かぬまま死亡した相嶋静夫さん。遺族は拘置所内で適切な検査や治療を受けられず、がんの発見が遅れたとして、国を相手取り1000万円の損害賠償を求めた訴えを起こしていたが、21日に東京地裁は「請求を棄却する」と判決。
相嶋さんの長男は「考察が浅いというか、医学的な検証がほとんどされていないので。まず拘置所についてはちゃんと法律を守りましょうよ、ということを強く言いたい」と訴えた。
また、原告側の高田剛弁護士は「拘置所の医療の特殊性というものに忖度と言いますか、配慮と言いますか。一般の水準の医療と(比較)してはやはり、かなりずさんだったと言えると思う。少し緩やかな判断基準をしたと思う」と指摘した。
この判決が出る1ヵ月ほど前、相嶋さんの遺族を取材。相嶋さんの妻は「主人の目の色が薄いと思った、面会に行ったときの。随分グレーがかった目をしているなと思って」「悔やんでも悔やんでも悔やみきれない」と語っていた。
相嶋さんが残した被疑者ノートには拘留中に極度の貧血を起こしており、血便なども確認されていた。医療専門家によれば内視鏡だけでは腫瘍がどこまで広がっているかなどの状況は確認できず、通常であればCTやMRIなどの検査が必要だというが、相嶋さんは拘置所内でそうした検査は受けていなかった。
そしてのちに悪性の腫瘍も判明。しかし度重なる保釈請求も却下された。遺族は拘留一時停止という策で限られた時間内に相嶋さんを病院に連れて行き検査はしてもらえたものの、相嶋さんの長男は「事前の連絡なしに、ようは犯罪者が来られても困ると。これ以上ここでは診察できないから今日はお引き取りくださいと」と、当時受けた対応について明かした。
訴訟では遺族側は「適切な対応がなされていれば延命できた」「起訴取り消しによる名誉回復すら見届けられずに亡くなった」と主張。
一方国側は「相嶋さんの貧血は軽度で精密検査を必要とする状態ではなかった」「血が混じった便が確認されたあと内視鏡検査を実施しており、対応に問題はなかった」「がんの早期発見と余命の因果関係もない」と反論。
さらに拘置所側は「去年7月の段階で相嶋さんが軽い貧血だったので経過観察にした」と主張していたが、相嶋さんの長男は「カルテにその辺(経過観察という記載)が一切残ってない。普通、医療訴訟だとカルテに書いてないことはやったとは認めてもらえない。そこでしっかり医師として貧血の原因を追究してくれていればもうちょっと延命できたんじゃないか」と指摘した。
高田弁護士は「拘置所のお医者さんは一般のお医者さんと行動が違う。たとえば皆さんが今後何かのアクシデントで拘留されて、仮にまだ有罪判決を受けてなくて、ただ争っているだけという、無罪が推定されている状態であったとしても、こういう一般からすると非常にレベルの違う医療に直面せざるを得ない」と警鐘を鳴らすと「相嶋さんや我々にとって、到底納得できるものではない」と、判決に対して異議を唱えた。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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