改正配偶者暴力防止法、いわゆる「改正DV防止法」が施行され、「大声で怒鳴られる」「無視される」など、言葉や態度の“精神的DV”が追加された。法律は2001年に成立し、加害者の接近を禁じる「保護命令」が出せるようになったが、これまでは原則として“身体的暴力”のみが対象だった。
しかし相談の6割以上を占めるのは、精神的DVだ。今回の改正では「自由、名誉、財産に対する脅迫」も保護命令に盛り込まれたが、改正後も「DVの線引き」については疑問の声が上がっている。『ABEMA Prime』では専門家と当事者とともに、アウト・セーフの境界線を議論した。
■「改正DV防止法」どこが変わった?境界線は?
そもそもDVの定義とは何か。DVの被害者・加害者双方を支援するNPO法人「ステップ」の栗原加代美理事長は、「身体的暴力と考えがちだが、本来は行為ではなく関係性だ」と説明する。「主従関係になり、一方が奴隷化していくことであり、身体的・精神的暴力は、支配のための行為でしかない」。DVの線引きとして「恐怖の有無」を示し、「更生プログラムでも、ほとんどは精神的で、身体的は5割。精神的の方が傷は深く、“魂の殺人”と言われるので、今回対象となったことは大拍手。被害者にとっては保護命令を申請できる大ニュースだ」と指摘した。
精神的DVは、喧嘩した際に大声で怒鳴ることも含まれるのか。これに栗原氏は「怒鳴らなくても、相手の言動を全て否定していくこと。日常化した支配関係を指し、1つの行為ではDVに該当しない。自分の思い通りするために、相手を変えようとする行為から生まれる」と解説した。
また、加害者は「8割ぐらいは更生できる」と話す。栗原氏らが行うプログラムを通して、「歪んだ考え方を治せば良く、そこを治すのは難しくない。ただ、どこを治したらいいかが分からないだけ」と語る。
一方で、NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は、民間の更生プログラムが少なく、刑務所に任されている現状があると語る。「日本では加害者になった後でないと、医療機関や民間団体の治療プログラムに繋がらない。DVに限らず、性犯罪の再犯率も高いが、捕まる前に治療やプログラムにアクセスできる仕組みが足りていない」と主張した。
この意見に栗原氏も同意し、「アメリカでは被害者の電話1本で、すぐ逮捕となり、更生プログラムへ強制的に行かされる。日本にはそうした法律がないが、入れていただきたい」と提言する。
■当事者が語るDV被害の実態
では、DV被害の実態はどうか。かつて7年近くにわたり元夫からDV被害を受けていた木村さんは、「精神的DVから始まった」と振り返る。「結婚から少しして、まず家事から『なんだこの食事は』などと大声を出された。30分くらい窓が開いていても怒鳴り続ける。親や友人の悪口を言って、会わせてくれず、1日20回ぐらい電話やLINEで『いまどこで何をしているのか』の報告もさせられた」。被害を受けている自覚はあったという。「相手は年上で、『私が良くなるように』との忠告だと、最初は素直に受けていた。しかし身体的な暴力が増え、平手でたたかれたり、首を絞められたり、包丁を突きつけられたりされたため、『死んでしまう』と思い警察に相談した」と明かした。
被害者の中には、抑圧されていても「普段は優しいから」と感じる人もいる。木村さんのケースも同様で、「ひどい時は約2時間正座で説教されるが、翌日には『もう二度としない。おいしいもの食べに行こう』と平謝りして、優しくなるときもある。そうなると、『私が頑張れば家庭が保てるのでは』と感じてしまった」と話した。
栗原氏は「加害者は我慢している“イライラ期”から、“我慢爆発期”を経て、悪いなと思う“ハネムーン期”」までの循環を繰り返していると指摘する。「ハネムーン期があるから、『解決できる問題だ』と、ますます相手に仕える姿勢を取っていき、関係性がひどくなる。警察に訴えずに、20年、30年も別れないで、一緒にいる人が増えている」と説明した。
■法改正でも残る課題
法律が改正されても、対応する警察側に課題はないのか。栗原氏は「警察を呼んでも、ただ注意して警告して、『次やったら逮捕だ』と、それだけ。警察は治療法を言わないから、ほとんど治らないと思う」と指摘。
DV被害を受けていても、本人自身が気づいていないこともある。「友達と話しても『うちもそうよ』となる。どこの家庭も何らかの問題があって、『そんなのケンカじゃない』と片付けられてしまう。そうすると、なかなか被害者であると気づけない」。
そして被害を認識しても、「被害届を出す被害者は、ほとんどいない」のが現状だ。「夫や父親を犯罪者にしたくない。もし保護命令できたとしても、申請する被害者は少ない可能性がある」と警鐘を鳴らした。
(『ABEMA Prime』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側