国産としては73年ぶりの捕鯨母船「関鯨丸」が新造された。甲板上にはクジラを探すための大型ドローン用デッキが装備され、これまで不可能だった70トン級の大型クジラが引き上げ可能となり、新たな冷蔵設備による品質管理とともに、日本の商業捕鯨の中核になると期待されている。
日本では古来より捕鯨が行われ、戦後の食糧難では貴重なタンパク源となった。1951年にはIWC(世界捕鯨委員会)に加盟するも、反捕鯨国の主張で、商業捕鯨は中止、生息数を調べる「調査捕鯨」のみとなった。反捕鯨団体による妨害も問題となる中、2019年にIWCから脱退し、商業捕鯨を再開。しかし再開後も鯨肉消費量は低迷し、漁業従事者の高齢化なども懸念されている。『ABEMA Prime』では、捕鯨基地が地元の政治家とともに、日本の捕鯨について考えた。
■捕鯨母船「関鯨丸」の費用は75億円 「そんなに高い価格ではない」
捕鯨毋船「関鯨丸」は、全長112.6メートル、総トン数9299トン。費用は約75億円かかり、全額融資でまかなわれた。電気推進船にしたことで、70トン級のクジラ引き上げが可能になったことが特徴で、船内でクジラを解体でき、100人の乗組員全員に個室が用意されている。
これまでは「日新丸」が捕鯨母船として使われていた。1987年にトロール船として建造されて、船齢は30年超。1991年から2023年まで、捕鯨母船として操業していた。8145トン、全長130メートル、幅20メートルの規模で、通算1万7072頭を船上で処理した。日本の遠洋捕鯨の中核を担い、2度の火災や、反捕鯨団体「シー・シェパード」による体当たり攻撃なども経験している。
捕鯨の基地がある山口県下関市の元市長で、自民党「捕鯨議員連盟」副幹事長の江島潔参院議員は、「小さい船は25年程度で交代するが、日新丸は30年以上の稼働実績があり、寿命により更新した。中で解体して冷凍·冷蔵保存できる『工場付きの船』と考えれば、75億円はそんなに高い価格ではない」と語る。
関鯨丸を建造したのは、「共同船舶株式会社」。同社は1987年、鯨類資源調査事業への貸船会社として創設された、世界で唯一「母船式捕鯨」を行う企業だ。捕鯨母船1隻と捕鯨船3隻を所有している。2023年3月期に1億5000万円の黒字を達成し、売上は約31億円。鯨肉販売(20億円)や目視調査事業への貸船(10億円)などで収益を得て、水産庁から捕鯨対策予算の貸付(年10億円)も受けている。
関鯨丸建造にあたっては、共同船舶が銀行から融資を受けたという。江島氏は「共同船舶が、お金を借りて建造して、資金を回収する見込みがあると経営判断して、75億円の投資を行った」と説明した。
捕鯨をめぐっては、かねてから反捕鯨団体からの妨害を受けてきた。シー・シェパードは妨害船を使い、捕鯨船への体当たりや、信号ロケット弾を打ち込むなど、度重なる妨害行為を行ってきたが、日本側の提訴により、2016年に「永久に妨害しない」ことで和解している。日本捕鯨協会によると、日本のIWC脱退以降、200海里内で操業していることもあり、妨害はされていない。
反捕鯨団体による妨害は「南極海で調査捕鯨をしていた期間」に限られていた。江島氏は「南極海は『どの国のものでもない』と条約で守られていて、『なぜその海域で、クジラを捕るのか』と主張する一部の国があった。日本は現在、EEZ(排他的経済水域)の中で捕鯨している。日本近海での捕鯨を理由に、反捕鯨団体に“軍資金”を出す国や団体はなく、止めさせようという国はない」と述べた。
■商業捕鯨の必要性
そもそも商業捕鯨は、なぜ必要なのか。宮下一郎農水大臣は2023年11月、「クジラは重要な食料資源だ。他の海洋生物資源と同様に、科学的根拠に基づいて持続的に利用すべき。伝統的な食文化継承にも貢献する、大変重要なもの」との認識を示している。
江島氏は「調査した結果、鯨種の生息数は大体把握できた。この計算は日本だけでなく、IWCの科学委員会で決めたもので、科学的データに基づいて捕鯨している」とした上で、「反対国は『クジラは人類の友達だ』や『賢い』などと、非科学的な主張をする。背景には『自分たちが食べていないから、日本人も食べるな』という思いがある。日本は全ての魚種について、科学に基づいて、捕るか制限するかを判断すべきだと言っている」と説明する。
水産庁のまとめ(2023年1月時点)によると、IWC加盟国のうち、捕鯨容認もしくは持続的利用支持なのは、アイスランド、ノルウェー、ロシア(欧州は3カ国のみ)、中国、モンゴル、カンボジア、ガーナなど38カ国、一方の反捕鯨はイタリア、英国、スペイン、ドイツ、米国、豪州、韓国、インド、メキシコ、ブラジルなどの50カ国。反捕鯨の理由としては、主に「資源量が減っている」「絶滅の恐れがある」「賢く神聖な生き物である」「捕獲方法が残酷」などが挙げられている。
そんなIWCは現在、財政難に悩んでいる。1982年に商業捕鯨の一時停止を採択したことから、潮目が変わった。日本は商業捕鯨再開を求めてきたが、欧米やオーストラリア、ニュージーランドなどが反対したことで、2019年に日本脱退に至った。その後、本部ビル売却の意向が示され、支出カットや一部加盟国の分担金引き上げも行われている。
IWCはクジラの資源管理をする国際機関だが、江島氏曰く「いろいろな国が、出たり入ったりする団体」といい、「ノルウェーも商業捕鯨をやっているが、捕鯨モラトリアム(商業捕鯨の停止)で脱退し、その後また参加した。アイスランドも同様だ。将来IWCの考えが変わったり、歩調が合ったりなどがあれば、再加盟も十分あり得る」との見方を示す。
水産庁「捕鯨を取り巻く全体状況について」によると、鯨肉の消費量は1960年に15.4万トンで、一時は20万トンを超える年もあったが、1960年代後半から右肩下がりとなり、1988年の商業捕鯨停止を経て、2021年には1000トンに。
江島氏は、そうした状況でもクジラを大事にするのは「国産の食料だから」と話す。「例えば、サーモンや鶏肉、牛肉はほとんどが輸入。しかし、いつまでも入ってくる保証は全くない。可能な限り、我々の手で食料を確保することが大事。クジラはその重要なひとつだ」とした。(『ABEMA Prime』より)
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