同性パートナーシップ制度に異性の事実婚カップルを加入させる動きが広がっている。事実婚といえば、姓を変えることなく、お互いの親や親戚とのしがらみと距離を置けるなど、様々なメリットがうたわれ、日本でも増えつつある共同生活の形だ。しかし、ネット上には「別姓のためだったけど、相続とか保険とか配偶者控除とか失うものも多い」「法的に配偶者と認められないのはやはり不安」「事実婚への無理解が、不平等を生んでいる」との声も。
事実婚にはどのような壁があるのか。なぜパートナーシップ制度の適用を望むのか。『ABEMA Prime』で当事者と考えた。
■パートナーシップ制度と事実婚の違い
そもそも、パートナーシップ制度は、同性婚が法的に認められていない日本で、性的マイノリティーのカップルに対して、結婚に相当する関係であると認める制度で、2015年11月に渋谷区で初めて導入された。正式な婚姻ではないもののく、病院付き添いや共同での賃貸契約、公営住宅入居や生保受取人指定が可能になるもので、2023年5月31日時点の渋谷区のまとめでは、328の自治体で導入されている。
結婚問題の現状と課題に詳しい古藤由佳弁護士は、「国ではなく地方自治体が、同性カップルに『婚姻と同等の関係である』と証明する制度だ」とし、「利用によって、クレジットカードの家族カードが作れたり、公営住宅に家族として入居できたりなどのメリットがある」と説明。
一方の事実婚とは、法律上の婚姻手続きを行わず、同じ戸籍に入らない状態で、夫婦と同等の関係を持った状態を指す。住民票の続柄には「夫(未届)」「妻(未届)」と記載される。内閣府の男女共同参画白書(令和4年度)によると、事実婚を選択しているのは成人(20歳以上)人口の約2〜3%で、2023年では成人約1億人のうち約200万〜300万人と推計されている。
古藤氏は「第三者に認めてもらうものではなく、カップルの当事者間で『私たちは結婚している』と合意形成して、共同生活を営む状態」を指し、「婚姻と同じような関係が続いているとして、不貞で慰謝料請求が生じるなどはあるが、公的サービスは受けづらい状態だ」と補足した。
パートナーシップ制度では、事実婚と異なり、行政の証明書が発行される。一方で住民票には、事実婚のように記載されない。その他、相続権がなく(贈与・遺言等で可能)、所得税控除もなし、離婚前は単独親権で、医療・ケアの決定は医療機関の判断、住宅ペアローンは金融機関で異なるなどの点は共通している。
4年前に事実婚をスタートさせた、ライターの青柳美帆子氏は「パートナーシップ制度と事実婚で認められていることは、そんなに差がない状態」といい、「パートナーシップ制度は、権利が基本的に認められていない同性カップルのためにあるもの。それを広げるために、事実婚を含むのには消極的賛成だ」とコメントした。
■事実婚のメリットとデメリット
事実婚のメリットとしては、夫婦別姓が可能で、口座の名義変更等も不要なこと、婚姻関係が終わっても戸籍に影響しないこと、束縛感が薄いこと、相手の家族と距離を保てることなどが挙げられる。
青柳氏は夫の要望で事実婚を選んだ。「自分の名字を変えたくないのに、妻にも変えさせたくない。平等のはずなのに、どちらかに我慢させることにハードルがある、と。届け出なくても“事実婚状態”と見なされることはあるが、うちの場合は住民票に“未届”を加えることで、婚姻届提出の代わりにした」と振り返る。懸案は子どもの養育権や将来の相続だが、ペアローンをめぐり事実婚の不利な側面も実感している。
事実婚を公表したばかりのハヤカワ五味氏は「『パートナーと家族になりたい』と思い、昨年末あたりから色々調べ話し合いましたが、今の時点では事実婚を選びました」と発表。理由としては、名字変更には抵抗ないものの、「子どもを産むまでメリットがないから」「もともと同棲していた」などを挙げる。
法律婚については「私は収入があるから控除は受けられない。親権も基本的に、最初は産んだ本人。ビジネスネームが本名でないため、名字を変えることに抵抗はない。ただ、少なくとも子どもを産むまでは、親権と相続しか法律婚のメリットが認識できず、わざわざ法律婚する意義はないと感じる」との考えを示す。
なお、事実婚のデメリットには、スマホ契約などで家族割引を受けづらい、不動産などのペアローンが通りづらい、遺族年金の受け取りに特別な書類が必要、田舎では“結婚していない人”扱いされる、子どもの親権は原則母親、配偶者控除が受けられない、などが挙げられる。
■選択的夫婦別姓
結婚後も名字を変えずに済む「選択的夫婦別姓」が実現されないため、事実婚を選ぶカップルもいる。内閣府による2021年の世論調査では、「夫婦別姓を選びたい人」の割合と人口を掛け合わせると、推定約934万人の潜在的希望者がいることがわかった。
ハヤカワ五味氏は「選択的夫婦別姓が法律婚に導入されたら、使う人は使う、使わない人は使わない、ただそれだけ」と語る。「パートナーシップ制度は、何か特典を付与するのではなく、認めて証明書を渡す制度。証明書によって民間や公共サービスは受けられるが、それほどいい制度と言えるのか。同性カップルの観点からは進んでいるが、事実婚からは『どうなのか』と正直感じる」と疑問視。
古藤弁護士は、パートナーシップ制度が普及すると、「社会が本当に変わってきた」と国や司法も認めざるを得なくなると予想する。「それが最終的には法改正につながり、法律婚でも幸せな結婚が認められる形に変わるのではないか。そうした意味でも、パートナーシップ制度の活性化はいい」との見方を示した。
青柳氏は「事実婚が認められているのは、不利益を被った人が頑張った結果。パートナーシップ制度も同様の経緯があり、先人に敬意を持ちながら我々はいる」と指摘する。その上で、「パートナーシップ制度や事実婚が認められるのは良いが、結局『こっちでいい』となってしまうのは避けたい」と制度の整備によって、選択的夫婦別姓や同性婚の法制化に影響が出る可能性に警鐘を鳴らした。(『ABEMA Prime』より)
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