今、SNS上で「子持ち様」と言って、幼い子を持つ働く親を批判する投稿が目立つ。なぜ会社内で子を持つ親とそうでない人との溝ができるのか? その対応法は? 心理的な観点を専門家に聞いた。
【映像】Xで3000万回以上表示された“子持ち様”に関する投稿とは?
「有給使い切った欠勤続きの子持ち様が言う休む権利って何?」「子持ち様の分の仕事も独身なんだからどうせ暇だろと負担させられたり」(Xの投稿から)
今、SNS上で幼い子を持つ親を批判する投稿が増えている。なぜ今、このような状況になっているのか?
明星大学心理学部教授で臨床心理士/公認心理師の藤井靖氏は、職場で不測の事態をカバーし合う「お互い様文化」が限界にきていると話す。
「子育てをしている人が時短勤務をしたり、(子どもの発熱などで)退社した際に周囲は少なからず不公平に感じるもので、単発・数回であれば耐えられるが、やはり蓄積して大きなストレスになる」
2023年11月、Xのユーザーが、「子持ち様が『お子が高熱』と言ってまた急に仕事休んでる。部署全体の仕事が今日1.3倍ぐらいになった」と投稿したところ、表示回数が3000万回以上に上り、賛否両論が巻き起こった。
藤井氏はSNS上で「子持ち様」という表現が定着したことにも注目する。
「名前が付くと『自分の不満(の正体)はこれだったんだ』と意識するようになり、意識すると言いたくなる。さらにネット上ならではだが、“連帯”してしまうと、『やっぱり自分の思いは正しかった。相手が悪かったんだ』というような一方的認識になって、攻撃的になったり、無理解につながったりする」
時短勤務や急な休みなどを取って、批判を受けている子育て中の親。当然、その人の給料は減っているとしても、支える周囲の給料は増えず、仕事だけが増えるという状況に。
藤井氏は「どちらかだけが配慮される対象になることは職場としては健全ではない。本来であれば、自由な働き方を認めたり、格差をなくして“子を持たない様”にも権限・配慮・報酬・評価を与え大事にするべきだ」と指摘した。
■“子持ち様”が周囲から恨みを買わない3つのコツ
藤井氏は“子持ち様”が周りの人たちから恨みを買わない為に、できることが3つあると言う。
1:仕事人である自分を見つめ直す
「環境が変わった時こそ人の価値が炙り出される。仕事時間が短くなった中で、自分が職場に貢献するためにどう変わるべきかをきちんと考え、見直し、行動に移すことが必要だ」
時短勤務でやりきれない仕事を抱えていないだろうか。独身時代と全く同じことができると自分を過信してはいけないし、周りの状況をもっと見なければならない。面倒な仕事を率先してやるのも良いだろう。子を持つ人が問題ないのではない。子を持つ人で、配慮のピントがズレている人が問題なのだ。
2:周りの人に意見を求める
「まずは周りの人の意見を知ること。そして、(周りの人の意見を)自分の仕事の仕方に少しでも反映すると、アドバイスした側から見れば自分の考えを取り入れてくれたことになるため、何かあっても文句をつけづらくなるし、不満を抱かれにくくなる」
3:周りの人に共感を求めない
「『共感を求める』=『自分と同じ温度を持ってもらって分かってもらおうとすること』であり、相手の感情をコントロールしようとする行為であるため、不快感につながりやすい。単なる職場の雑談のつもりでも、私的なことには気持ちが乗ってしまう。気づかぬうちに感情や幸せ感の押し付けにならぬよう、共感を求めるなら家族や友人に」
「子育て大変なの…」。そんな愚痴や空気感は職場や同僚、仕事には関係ないことだ。
■“子持ちでない様”が不満をため込まない3つのコツ
藤井氏によると、一方の“子持ちでない様”が、不満をため込まないための方法も3つあるという。
1:“子持ち様”のことを理解しようとがんばらない
「『協力してあげたいけど、でも自分も苦しいし、態度に違和感がある…。そんな風に思ってしまう自分は冷たいのか…』と考えれば考えるほど葛藤とストレスに繋がる。そのため『この人はなんでこんなことをするんだろう』『どうしてこちらの気持ちを分かってくれないんだろう』などと思い始めると答えが出ないため、いっそ理解することを諦めた方がいい」
人の感情は個人差が大きく、殊に職場の関係レベルで本質を理解することは極めて困難。自身と状況が異なる“子持ち様”のことをあれこれと考えるのはやめるべき。“自分とは別の存在”として無理に理解しなくてもいいのだ。モヤッとしたら甘いものでも食べて落ち着きたい。
2:優しくも冷たくもしない
「日々忙しい中で無理して優しくしてしまうと、結局は自分の中での不満と実際の行動のギャップに苦しむことになりかねず、またその優しさを維持することも現実的には困難だろう」
冷たくすると対立してしまうが、一方で「そうしなきゃいけない」空気に流されて優しさを継続すると、かえって自分を追い詰めることになりかねない。一定の距離感を保った一貫した対応が、結局はお互いのためになる。
3:ニコニコしていよう
「簡単そうに見えて、これが意外と出来ていない。不満などが顔に出てしまっていると言葉に出さなくても周りに伝わってしまう。人間関係は相互作用でもあるため、一人が不機嫌な顔をしていると職場の空気が悪くなり、結果として自分にストレスが返ってきてしまうし、自分自身に対する周囲の評価を低めてしまうことになりかねない。人と人との溝は確実に存在しているし、埋まることはない。であるならば、その溝が仕事に影響を及ぼさないよう、まずは自分の半径1メートルの空気感を良い状態に保ちたい」
■仕事をカバーした人にインセンティブを
“子持ち様”を巡って、ダイヤモンド・ライフ副編集長の神庭亮介氏は「批判対象に『さん』や『様』をつけるのはネット特有のスラングだが、 そもそも『対立している、分断している』と捉えるよりも『対立させられている、分断させられている』と捉えるべきだ。そして、対立させている主体は会社・企業だ」と指摘した。
解決策については「会社は育休を希望する社員に『どんどん休んで』というだけでなく、代わりの人員を手配する必要がある。社員の急な休みに対応するべく、属人化した業務を誰でもいつでも引き継げるように標準化しておくことも大切だ。三井住友海上は育休を取る人の『同僚』に最大10万円を支給する制度を発表し、注目を集めた。仕事をカバーした人の“善意を搾取”するのではなく、しっかりとインセンティブを出して報いるべきだ」と述べた。
また、メディアの報道姿勢に関して以下のように見解を語った。
「最近“子持ち様”に関する報道が相次いでいるが、火付け役になったのはハフポストの相本啓太記者によるキャンペーン報道。記事のなかでは、いま言ったような処方箋もセットで提言されている。メディアも炎上ネタとして無闇に対立を煽るのではなく、問題を引き起こす構造や、それに対する解決策もあわせて伝えていくべきだ」
(『ABEMAヒルズ』より)
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