4月に行われた、衆議院東京15区の補欠選挙。自民党が候補者擁立を見送る中、9候補が乱立し争われたが、日本維新の会・金澤結衣候補の演説に対し、政治団体「つばさの党」の根本良輔候補の陣営が大音量で「質問に答えろ」と連呼。さらに、太鼓を打ち鳴らして迫る。
こうした行為は、今回当選した立憲民主党・酒井菜摘氏やその他の候補者の街頭演説の場でも。警視庁は大音量でのヤジやクラクションを鳴らすなどした行為について、「選挙の自由妨害」に抵触する疑いがあるとして警告を出した。一方、根本候補の陣営は「選挙妨害と言うほうが選挙妨害だ。法律の範囲内でやっている」などとSNSを通じて主張している。
選挙における言論、表現の自由と妨害の境界はどこにあるのか。そもそも現行制度は時代に合っているのか。『ABEMA Prime』では、2007年の東京都知事選に立候補し、「こんな国は滅ぼすことだ」などの政見放送で強烈なインパクトを残し話題となった革命家の外山恒一氏を交え議論した。
■選挙妨害か、表現の自由か
外山氏はかつての自身の“合法的選挙妨害”について、次のように語る。
「2012年の衆院選で、原発推進派だという人を見繕っては選挙カーを街宣車で追い回した。ただ、こちらは立候補していないので距離を置き、演説はかき消さないよう気は使った。あるいは、出馬していないのに選挙カーまがいの車を作って、“外山、外山でございます”と言いながら回った。これらはその人を落とすことが目的というよりは、意思を表現するやり方はいろいろあるんだと、アイディアの提示としてやった」
今回のつばさの党の行為については「擁護はしにくい」とするものの、規制強化には否定的な見方を示す。
「例えば、原発推進派の人に反対派の候補者が街頭で論戦を挑むとか、拉致問題について“北朝鮮はやっていない”と言った政治家を追及するといった場合に、今回ほど怒られただろうか。一般に無許可でビラを撒けば逮捕されるケースがあり、日本には言論の自由なんて全然ないと思うが、選挙は立候補さえすればかなりの自由が認められている。こういう行為に目をとられて規制する方向にいくのはまずいと思う」
つばさの党は「公選法の範囲内で認められたものであり、表現の自由として守られるべきもの」と主張。「政治家に質問しに行っただけ。回答を得られれば立ち去っている」「国民の不満の声を代弁し、政治家たちのウソを暴いていく」としている。また、根本候補は「そもそも当選すると思っていない」と述べているが、前東京都議で選挙ドットコム編集長の鈴木邦和氏はその点に注目する。
「公職選挙法は、善意を持ってその選挙に立候補し、当選するために戦うことを前提とした法律だ。つまり、他から見たら悪意のある、そして当選が目的でないような今回の行為は想定しておらず、対応できていない」
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「規制の下における自由な選挙活動が脅かされたという意味では、選挙の自由妨害の疑いで警告を受けるのは当然だ」と指摘。一方で、「問題になっているのは、思想が見えづらいから。公職選挙法の目的には『民主政治の健全な発達を期すること』と書かれている。つまり、お互いに政策や主張を戦わせていれば大きな問題になっていなかったと思う。ただ、つばさの党の昨年の収支報告書を見ると繰り越しを含めて3000万円くらいは資金力がある。つまり、ある程度のネットワークと基盤を持った政治団体で、そこをボトムラインとして見ないほうがいい」と述べた。
■現行法には課題も…選挙制度どうアップデート
外山氏は「今回みたいなことがあると『供託金をもっと高くすべきだ』という話が必ず出るが、今でも十分高い。別の形のほうがいいのではないか」と疑問を呈する。
「諸外国では、供託金ではなく署名にしているところもある。運動の実績があったり、普段からいろんな主張をしている人は集めやすいので、お金がなくても出られる。日本で今問題になっているような単なる売名行為の人は、供託金を払えても数千人の署名を集めることはできないと思うので、そういう制度にしたほうがいいのではないか」
鈴木氏は、今回の事態が選挙結果に与えた影響について「限定的」だとみる。
「我々が調査している告示前からの推移を見ても、つばさの党の活動が選挙結果に影響を与えたという傾向は見てとれない。ただ、現場に行くと、女性の方や子どもたちが怖がって演説から離れていくという光景がたくさんあった。そういう意味では、江東区の地域の方々の心に悪い意味で残ってしまったと思う」
公選法改正について、日本維新の会は「選挙の自由妨害罪」を明確に規定し厳罰化する改正案を取りまとめた。自民党は罰則強化を含めた今後の検討課題とし、公明党や立憲民主党、社民党は現行法での対応が妥当などのスタンスを示している。
鈴木氏は「法改正しなくても対処できると思っている」という一方、古い法律でもあることを指摘した。
「そもそも法律は、一つひとつの細かい事例にどう対応するかということは書かない。今回、法律に照らし合わせた時に、警察がどう判断するかというガイドラインがなかったので、所管官庁である総務省が作るべきだと思う。法律の文言を多少変えたところで、警察が解釈に困って動けないという事態は想定できるからだ。ただ公選法ができたのは何十年も前で、なるべくお金にかかわらず選挙できるように、とすることを想定した法律だ。時代背景が変わっている中で、多くの人が参加するためにどうするかという基本的なところから考え直したほうがいいと思う」
(『ABEMA Prime』より)
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