アフリカ大陸の南東に位置するジンバブエ共和国では、かつて「1000億ジンバブエドル紙幣」が流通していた。日本円にして、わずか0.0003円にしかならない、この紙幣が発行された背景には「ハイパーインフレ」があった。
当時現地で生活していた、日本の国立民族学博物館の早川真悠氏が、現地の様子を振り返る。
「物価が上がる一方で、どんどんお金が必要になる。毎月や毎週、新たなお札が発行される。いまでは“お土産”として売られているが、その当時は古新聞と同じ感覚で、紙幣が捨てられていた。50米ドルほど両替すると、札束で返ってくる」(国立民族学博物館 外来研究員・早川真悠氏)
早川氏は「首都のハラレでは、米ドルが多く使われる。南アフリカに近い都市では、南アフリカの“ランド”が主に流通する」と説明する。最終的に、自国通貨に価値を見いだせなくなり、2015年にジンバブエドルは廃止された。複数外貨制が導入され、米ドルや南アフリカ・ランド、日本円、中国・人民元など、9種類の海外通貨が、国内通貨となった。
そんな状況を脱して、通貨の安定を確保するため、先日から発行されているのが「ジンバブエ・ゴールド」だ。政府や中央銀行が持っている金(ゴールド)に、いつでも交換できる紙幣で、“金本位制”が復活した形となる。
しかし、ジンバブエの農村地で教育事業に従事している、ADRA Japanの上田耕二氏は「使ってくれと政府のアナウンスがあったが、現状ほとんど流通していない」と語る。現地では、大半が米ドルの使用で、「ジンバブエドルは信用がない。小さな10セント・20セントくらいのお釣りだったらレジの近くにあるキャンディーとかちょっとしたお菓子で受け取っている。今日は買えても、明日は買えないということが普通にある」のが現状だ。「(ジンバブエドルを)持てば持つだけどんどん価値が落ちていくので私も諦めている。ジンバブエ・ゴールドも、まだ信頼を得ていない」。
長年ジンバブエの動向を見てきた早川氏が、当時の暮らしを振り返る。
「都市部で生活していて、トウモロコシ粉がどうしても手に入らないときがあった。大学のスタッフで分けてくれるという人がいて、お金を払おうとしたが『お金はいらない。今自分は大丈夫だから使っていいよ』。国や行政機関には頼れないという認識があり、だからという訳ではないが、近所や友達同士の助け合いが当たり前になっている」(早川氏)
テレビ朝日外報部デスクの中丸徹氏が、ジンバブエを襲ったハイパーインフレを“ざっくり”解説する。「物価が継続して上がることを『インフレーション』と言う。それがハイパーになってしまった」。
ジンバブエは「本当は豊かだったはずの国」だという。金の1平方キロメートルあたりの埋蔵量が世界2位で、ダイヤモンドやプラチナなどの鉱物も産出されるが、2023年のインフレ率は667.36%で世界1位(IMF統計)となっている。資源的に豊かな国に、なぜインフレが起きたのか。その要因には、1980年から2017年まで37年間続いた、ムガベ前大統領による独裁政権がある。その過程で「実力以上に無理しすぎた」ことが、ハイパーインフレを引き起こしたという。
ムガベ政権は2000年、イギリス植民地時代から続く、白人の農地を没収した。それが農業の崩壊と物資不足を引き起こし、物価上昇につながる。財政が悪化して、お金の増刷を繰り返した結果、紙幣価値がなくなり、紙くずとなってしまった。結果として、2007年から2009年にかけての物価は、卵3個が1000億ジンバブエドル、週刊誌1冊が4000億、青菜1束が3兆、コーラ1本が6兆。通貨のケタを切り下げる“デノミネーション”を何度も行ったが、インフレは止まらなかった。
こうした経験があるのは、ジンバブエだけではない。ドイツやロシア、オーストリア、ポーランド、ハンガリー、トルコ、ブラジル、アルゼンチン、メキシコ、ベネズエラ、北朝鮮、コンゴなども、かつてハイパーインフレを起こしていた。
中丸氏は「お金はみんなが信用するから価値があり、誰かが『信用できない』となると、インフレが始まる」と説明する。その上で、新たに登場したジンバブエ・ゴールドを「金と同じだから安心して通貨」と評した。経済混乱をおさえるために4月30日に発行され、政府や中央銀行などが保有している“金”と交換できることを保証する、金本位制を採用している。しかし、今の段階では、さほど流通しておらず、期待もされていないのが現状だ。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
■Pick Up
・「ABEMA NEWSチャンネル」がアジアで評価された理由
・ネットニュース界で話題「ABEMA NEWSチャンネル」番組制作の裏側