5月にニコニコ動画がお知らせしたのは、クレジットカード「ダイナースクラブ」の利用停止。現在、「VISA」や「アメックス」なども決済ができなくなっており、注意が呼びかけられている。
【映像】ロリ→ひよこに 「DLsite」における言い換えリスト
ニコニコに限らずここ数年、プラットフォームが大手クレジットカードの取り扱いを突然停止する動きがある。理由の1つとして囁かれているのが「エロ規制」。アメリカ・カリフォルニア州で2022年、アダルトサイト「Pornhub」に無断で動画を上げられたと被害者が運営会社を訴えたのだが、そこで決済に使われていた「VISA」にも責任があると連邦地方裁判所が判断。この影響なのか、問題がある性的表現や暴力表現があるとされた商品やコンテンツは、カード会社から決済を断られるケースが相次いでいるとの見方が浮上しているのだ。
実態はどうなのか、表現の自由を侵害しているのか。『ABEMA Prime』で考えた。
■小説が強制非公開に「心身ともに立ち直れない日々があった…」
同人作家のクロさんは、「pixiv」でBL小説などを限定販売していたが、2022年の規約改定で小説3本が強制非公開になった。「10年ほど前から、バイオレンスなバトルシーンを含むBL作品を書いていた。冒頭にそういうシーンがあった後、悪者をやっつけにいくという、映画などで主人公が最初ひどい目にあうような展開だ。バイオレンスなシーンをメインに楽しむコンテンツではなかったが、“読みたくない方は注意してください”という作品紹介の注意書きが理由で消されてしまったと思っている」と説明。
pixivからのメールでは、「“クレジットカード会社から禁止キーワードが出てきたので、違う表現に修正してほしい”“クレジットカード会社との禁止事項に含まれるから”という理由を示された」という。
番組がpixivに取材を行ったところ、「決済代行事業者から、国際カードブランドの規約違反を指摘する報告などが増え、表現の過度な萎縮を防ぐために禁止商品を設定、基準を明確化した」と答えている。
クロさんは「こういったキーワードは作品を見つけるだけではなく、“読みたくないものを避ける”目的にも使われている。その注意喚起の文言までも規制されるのは腑に落ちない。クレジットカード会社を通さなくても、コンビニ振込や別のサイト、イベント会場などで販売できる機会はあり、生活に響くということはない。ただ、犯罪になるようなものを書いている覚えも一切ない。去年作品を消された時はメンタルがやられてしまって、心身ともに立ち直れない日々があった。大きい作品をたくさん書いている作家さんも打撃を受けるのではないか」と懸念を示す。
AV女優・えろ屋の紗倉まなは自身が身を置く業界の変化として、「パッケージの表記文言を変えていかないと再販できない流れになっている。でも、中身との温度差が大きすぎて、何を買ったのかわからない状態だ」とした上で、「法で整備され、“これがダメだ”と具体的に言われるならまだ理解できる。一方で、AVを売っているセル店などはクレジットカードを使えるわけだ。“何と戦っているんだろう?”というのが当事者の声としては大きい」と紹介した。
■山田参院議員「クレカ決済を“インフラ”として契約の自由に制限を」
参議院議員でMANGA議連事務局長代行の山田太郎氏は「日本では2019年8月、『COMIC ZIN』のケースあたりから表面化してきた話だ。確かに中には違法なものもあって、それらは取り締まらなくてはいけないが、内容の近いものにも広がってしまった。びっくりしたのが『カロリーメイト』で、“ロリ”が入っているために引っかかってしまう。おそらくAIなどで自動認定しているのだろう」と指摘。
山田氏は、ある国際ブランドに問い合わせをしたという。「『自分たちはあくまでもスムーズな決済を担うのが仕事で、個別具体的な取引については関知していない』と言っている。その下にアクワイアラ(加盟店契約会社)、さらに決済代行会社があったりと、複雑に絡んでいるわけだ。店舗などは『上から言われた』と言うが、どこから発せられたものかはわからない。最近は上からの“通達”があり、それはどうも国際ブランドなのではないかと言われている」とする。
さらに、「自主規制」を求められるケースもあるという。「こういうやり方をされてしまうと、“表現を抑えないと取引されなくなる”と自ら厳しくしてしまい、結果、息の根を止めることになる」と懸念を示した。
山田氏は、クレカ決済のシェアは高く、ネット時代において必要不可欠なものとして、「クレカをインフラに」と提言。電気や水道などと同様、契約の自由に制限をかけるべきとしている。深澤諭史弁護士は今回、「契約の自由」と「表現の自由」の衝突だとした上で、契約でクレジットカード会社側に広範な裁量権があると指摘する。取引中止は「公序良俗に反する」「ブランドイメージを損ねる」との考え方に沿う場合が多く、「クレジットカード会社側がそう思えば基本的にそうなる」としている。
山田氏は「同じ問題が検索エンジンにもいくのではないかと言われているし、一部ではSNSのアカウントが理由もわからないままBANされるケースも出てきている。これはクレカだけの問題ではなく、プラットフォーマーがものすごく力を持ってしまっているという話だ。民間は営業の自由、契約の自由が認められている。ただ公共性が高いとなれば、鉄道や電気、水道などと同様に規制するかたちにしていかないと、持たないんじゃないかという議論がされている。
憲法の“通信の秘密”はかなり参考になるはずだ。通信会社はどんなものも勝手に中を見てはいけないということで自由を保障し、これが表現の自由の母体にもなっている。独禁法の地位の濫用じゃないかと公正取引委員会に迫ったが、彼らはあくまでも独占かどうか、いわゆる競争上のものしか見ていない。しかし、ある企業が制限をしているのにそこを使わざるを得ないような、私的独占が起きている場合には、新しい形で取り締まっていかないと自由は守れないのではないか」との考えを述べた。(『ABEMA Prime』より)
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