反対していた住民も「こういうかたちになってびっくり」と話したのは、東京・国立市にある分譲マンションの解体。完成間近、購入者への引き渡し直前での決定だった。
解体が決まったマンションは「富士見通り」と言われる、関東・富士見百景にも選ばれた通りに建設された。しかし、周辺の住民から「富士山が見えなくなる」「日当たりが悪くなる」などと反対運動が起き、実際に完成が近づくと富士山が半分近く隠れてしまうことに。とはいえ、建物の構造に問題はなく、条例や法令の違反もなかった。事業者の積水ハウスは「現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、富士見通りからの眺望を優先するという判断に至り、本事業の中止を自主的に決定した」と発表している。
今回の事態が他の地域へ及ぼす影響、また開発と景観、住民との適切な折り合いとは。『ABEMA Prime』で議論した。
住民から相談を受けていた元国立市議の石塚陽一氏は「ただ“富士山が見えなくなった”というだけではなく、背景も含めて考えなければいけない問題だ」と指摘する。
「マンション自体は国立市内でいくつかできている。10年前にマンションができた時も陳情があり、だいぶ反対の意見が出たわけだ。ただ、そのマンションは北側に富士見通りがあり、日影や日照の問題がだいぶクリアだった。今回は狭い敷地の中で、1階、2階の低層住宅が隣接している。その人たちの生活環境について、積水ハウスの方たちはこの時点になって初めて知ったのではないか」
2021年2月に建設計画が公表された後、住民説明会を経て11階36.09m→10階30.95mに変更され、2022年11月に市が承認。また、国立市まちづくり条例では、マンションと周辺の商業地域は緑地整備・周辺景観との調和など基準はあるものの、高さなど数字の制限はない。富士山の眺望については当初から、市のまちづくり審議会で事業者をヒアリングしていた。
弁護士の関口郷思氏は「法令違反などが全くないにも関わらず、かつ完成後に解体するという判断をしたのは極めて異例なことだ」とした上で、「富士見通りに面している部分は近隣商業地域で、高さ制限がない状態。その裏側は第一種低層住居専用地域となり、2階建て住居専用の住宅街とされている。元々、マンションが建つ度に問題が提起されていたようなので、もっと前の段階で地区計画を定めるとか、行政側で規制を新たに設けるなどの必要があったのではないか」と述べる。
石塚氏は「国立市は(都市計画)マスタープランという基本的な考え方、コンセプトがある。市の面積は8.15平方キロメートルで、多摩地域の中では狛江市の次に小さい。国立市で文教地区の指定を受けているところにはお金になるような工場や大型店舗などはなく、財源的にも乏しい街だ。おじいちゃんおばあちゃんの時代から街並みがよくて住んだ方が多く、やはり“国立ブランド”というのが出てくる。今回の揉めたのも、要するに高さの問題。私が現職の時、“高さ条例をつくれ”と何度も言ってきたが、市はやらなかった。そのつけがもろに来てしまった」と指摘した。
国土交通省は2005年に「関東の富士見百景」を選定しているが、青葉台地区(目黒区)、東京都立武蔵国分寺公園、富士見テラス(東久留米市)、日暮里富士見坂の4カ所で「現在は富士山が見えない」としている。
SNSでは、「マンション業者は国立を敬遠するようになるので、衰退への道の扉を開けたのかもしれない」と懸念する声もあがる。作家・ジャーナリストの佐々木俊尚氏は「今回の問題がどれだけ他の地域に波及するのか。“景観を理由に高い建物を建てるのはやめましょう”という流れが出てくる可能性はある」とする。
NPO法人「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は「日常における市民による政策的なアプローチが非常に乏しい。“もっとマンションを建てて若い人を呼ばなきゃダメだ”と思っている方もいるだろうし、“絶対に景色を守りたい”という方もいるだろう。こういうことが起こってから、議員と一緒になって陳情したりするのではなく、日頃からのアプローチがあっていいと思う」との考えを述べた。(『ABEMA Prime』より)
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