「すごく軽い気持ちで投稿したが、インプレッション(表示回数)が3億近くついてて自分でも『え〜?』と思っている」
そう話すのは稀川まれさん。彼女のある投稿が今大きな話題となっている。それが…
「怖いか? 私のベーグルの才能が」
こんがり、ふっくらと美味しそうに焼けたベーグルの写真に「怖いか?」から始まる文章が綴られたこの投稿。これまでに3億回以上もユーザーから見られている。
「今までで一番よく焼けたかもと思って、フォロワーの人に『見てみて~』っていうぐらいの軽い気持ちで投稿した。『マネしたくなる』みたいなツイートもあって、嬉しかった」(稀川さん)
この投稿が広がると「怖いか? 私の砂糖細工の才能が」「怖いか? デカすぎる猫が」など、同じような投稿をする人が続出。“怖いか?投稿”でSNSが賑わい、企業も便乗する様子が見られた。
このムーブメントはなぜ起きたのか?
日本語学や構文、言葉が持つ意味について研究する法政大学の尾谷昌則教授は、元となった投稿の文章に注目。バズった要因として「口調」「構文」「伝達効果」の3つを挙げる。
「まずは口調。『怖いか?○○が』という表現は、どんな人が使うと想像するだろうか? 例えば私であれば、『機動戦士ガンダム』のシャアや『天空の城ラピュタ』のムスカ大佐などをイメージする。日常生活で私たちが普通に使う言葉遣いとは異なり、人をパッと意識させる効果がある」
2つ目は「構文」。話題となった投稿では倒置法が使われており、後ろに置かれた言葉が強調され、読み手を文章に引き込む効果がある。
3つ目は「伝達効果」だ。芝居がかったセリフのような「怖いか?」という口調とふっくらと焼き上がったベーグルの画像のギャップから、投稿にはある種の“冗談っぽさ”が演出されていると尾谷教授は言う。これにより、嫌味に捉えられがちな自慢話が中和され、受け入れられやすくなっているのだ。
さらに尾谷教授は言語学の「ポライトネス理論」を用い、より詳しく分析する。
「『ポライトネス理論』では、人間の『他者に受けれられたい』『よく思われたい』という(ポジティブフェイスの)欲求と、『他者に邪魔されたくない』『踏み込まれたくない』という(ネガティブフェイスの)2つの欲求に配慮し、コミュニケーション上の摩擦を起こさないための研究がされているが、今回の投稿はこの2つの欲求に当てはまる。本来、自慢する行為は相手のネガディブフェイスを脅かす危険性があるが、口調とベーグル画像が生み出すギャップによって冗談っぽさを演出し、相手に受け入れてもらいやすくしている。このような『嫌みなく堂々と自慢ができる』点を多くの人が気に入り、マネしたのでは」
さらに、「怖いか?」という言葉について、中央大学 飯田朝子教授は「『こわいもの見たさ』という成句があるが、江戸時代〜大正時代頃の文献には出ているが、昭和時代にはあまり盛んには使われなくなった。そして、現代のSNSにおいてキャッチコピーのように機能し、見る人の好奇心をくすぐり畏怖の念を抱かせる効果を生んでいるのだろう」と分析。
コピーライターの澤田智洋氏も「社会全体で“硬い言葉”や“上から目線による断言”が不足しているため、『希少性の高さ』も含めてバズったのでは」と考察した。
流行の発信地となった稀川さんも次のように話す。
「多くの人が自慢したい一芸を持っていて、それを披露する機会をうかがっていたのかもしれない。私のベーグルの投稿をきっかけに、いろいろな人に披露しやすくなったのかも」
そして、最後にこんな質問。どうだったのか? ベーグルの味は?
「めちゃくちゃ美味しかった。ふわふわもちもちで。引用されることで私のベーグルの写真を多くの人に見てもらえるのは嬉しい。よく焼けたので」
(『ABEMAヒルズ』より)
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