注目の中、幕を閉じた都知事選。そこで争点の一つとなっていたのが、“東京一極集中”。東京に人口や経済が集中し、地方の衰退を招いていると、国も長年に渡り対策を続けてきた。
6月、政府がまとめたこの10年の地方創生に関する報告書によると、東京への一極集中は厳しい状況のまま。この状況にネットでは「企業が都心に集中している状況では改善できない」「魅力のない地方はこのまま衰退する一方」との声が上がっている。
これに対して、「東京の一極集中は悪ではない」と異議を唱えるのが、都市政策専門家・明治大学の市川宏雄名誉教授だ。『ABEMA Prime』では市川氏と東京一極集中の是非について考えた。
■「東京の一極集中は悪ではない」
東京一極集中の現状として、人口は3690万3000人(総人口の約30%)、東京都の税収(地方税)は6兆2010億円(全国の27%)、企業の50%以上が集中している。
一極集中が進むことで家賃・住宅価格高騰、居住環境の劣化での「住宅難」、交通渋滞、通勤ラッシュ、遠距離通勤での「交通難」、人口減、雇用減、人材不足による「地方衰退」などのデメリットが指摘されている。
市川氏は「東京があるから日本は持っている。大都市にはさまざまな問題があるから、住みにくいという固定概念がありすぎる。今の東京の状況は都市問題をほとんどクリアし、世界でもトップレベルになっている。それを忘れて、大都市だから混雑していて、住みにくいなど単純思考で語るとおかしくなる」と主張。
さらに、「私は都市政策の専門だから、世界の都市間競争が最大のテーマだ。負けてしまった瞬間に投資は来ない、人は来ない、国は滅んでいくという事実がいっぱいある。負けてはいけないと考えているのが東京だ。見ているところが日本ではなくて世界。アジアで言えば、上海やシンガポール、世界を見ればニューヨークやロンドンがある。東京が世界を見て動いていたら、日本の都市はどこもついてこないのが現実だ」と続けた。
Chatwork創業者・エンジェル投資家の山本敏行氏は「企業は東京進出すべし」との考えで、「人・物・金・情報というところにおいて、東京に一極集中することは非常に重要だと思っている。今はZoomで情報が入ってくるが、その場でしか入ってこない、インターネットを通してだと入ってこない情報もあり、東京には本社がたくさんある。上場を目指すスタートアップは東京に拠点を持っていないといけない」。
一方で「例えば京都は、映画・アニメ・ゲームといったエンタメが強い地域で、グローバルの力もとってこれる。エンタメ×グローバルを京都で作っていく。これはアメリカでいうと、金融はニューヨーク、エンタメはロサンゼルス、ITはシリコンバレーといった各地で強いところがある。そういったこともできるのではないかと考えている」との見方を示した。
■地方をどう生かす?「単一にバラまく」のは悪手?
対して東京への一極集中が進む中、地方では過疎化による問題に悩まされている。電車・バスの路線廃止・縮小、病院・医師の不足、水道・道路など生活インフラの維持、学校統廃合による長距離通学など課題が山積みだ。
市川氏は「地方はさまざまだ。うまく資源を生かし、政策がある所は生き残っている。日本の政府の方針で、並べて単一に金をばら撒くのが一番いけない」とコメント。
自民党の小林史明衆議院議員は「全く同意だ」といい、「まずインフラについて、国が30年ぐらいの計画を立てて、上下水道をどこまで引くのか、どこまで縮減するのかをセットでやらなきゃいけない」との考えを示す。
それは限界集落でも実現可能なのか。小林氏は「この未来は石川県の能登にあると思う。コンパクトシティというと石川県の金沢に集まるイメージがあるが、例えば珠洲市や能登町の集落の中心がある。そこに集まると、実はコストが下がっていく。自治体に住んでいる人たちからこの集落に移転する話が出てきたことで、どこに集まるのかを明確に示すと納得できると思っている」と答えた。
前明石市長の泉房穂氏は「この議論をする時に私の中では4つに分けている。1つ目は国全体における首都としての東京。2つ目にブロックの拠点として、例えば札幌(北海道)、仙台(東北)、名古屋(中部)、大阪(関西)、福岡(九州)はブロック全体の経済圏の中で中心が占められるから、そこがもっと頑張るような応援はありだと思う。3つ目は一定の拠点的な所をしっかりテコ入れする話だ。最後は過疎部分にどの程度の市民サービス、全国の一律化を維持するか。東京だけというよりブロックの拠点はもうちょっと頑張るような方向がいい」と提案した。
■地方の生き残り戦略 カギは「インフラの一本化」?
東京の一極集中はコロナ禍から右肩上がりで加速しているが、地方はどうするべきなのか。泉氏は「“東京は高いけど便利”、“過疎部はちょっと不便だけど安い”とかしたほうがいい。しかし今は逆転現象で、過疎部のほうが交通費などがかさんでしまうことがあるので、そこを選択できる状況に持っていくのかと思う」との考えを述べた。
地域ごとに最良の選択をすると、見極める人が必要になってくるが、誰がやるのか。泉氏は「国と地方の連携だと思う。市長会などに行った時、一番共通する話題は足の便、交通網だ。バスや電車が減ってしまうと住むにも住めなくなる。病院にも行きにくくなる。私なんかはそういったところの最低限の生活の足の便は国が連携しながらちゃんと応援をいただかないと住めなくなってしまう。ただ便利さの部分には、都市部と同じことまでは難しくなってくる」と答えた。
国と地方の役割分担について、小林氏は「人口が増える時代と減る時代で変える必要があると思っている。今は減る時代に入っているので、例えば窓口の問合せを国と地方で一つのコールセンターにして、そこで全部の電話を受けるとなったらものすごくコストも下がる。消防は市町村ごとにやっているが、これも広域でやったほうがコストが下がる。みんなが必要なインフラは一つにまとめていく。一方で地域ごとの戦略は市町村の仕事としてお任せしていくというのが、これからの生き残り戦略だと考えている」とした。
(『ABEMA Prime』より)
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