ある会社の上司による、ネット上のボヤキが話題になっている。「頑張れと言ってはダメな時代。頑張らない部下をどう指導すれば……」。働き方改革や様々なハラスメントなどが浸透する中、「頑張らない生き方」が広がり、職場で戸惑いや不協和音が生じているという。
【映像】「頑張らなくていい論」に“ビリギャル”小林さやか氏がコメント
SNS上では“頑張れと言えない悩み”に共感の声がある一方で、「頑張らない人のせいで、頑張っている人に余計な負荷がかかる」「健康状態や環境のせいで頑張れない人はともかく、それ以外は甘え」といった、職場で頑張らないことに対する違和感や拒否感を訴える意見も見られる。頑張らない、自己研鑽しない生き方とは何なのか。その是非も含め、『ABEMA Prime』で議論した。
■「“頑張っている人たち”はいつも苦しそう」
農業従事者のゆうへいさん(34)は、「努力するのはコスパが悪い」が持論で、「頑張らない生き方」をブログで発信している。「小学生ぐらいから『頑張れ』と言われて育ってきた。“勉強できたほうがすごい”“良い会社に入れば幸せになれる”という風潮で頑張っている人が、みんな幸せそうではない。違和感がある」。見返りを求めて頑張る場合、「手に入れられなければ打ちのめされる。“今の自分じゃない何かになりたい”という思いになるのであれば、それは苦しみにつながっているのではないか」と考察する。
ゆうへいさんは勉強に価値を見出せず高校を中退し、通信制の高校を卒業。その後は真面目に働くことに息苦しさを覚え、バイト先を点々とする。27歳からは約6年間、海外を旅して過ごした。昨年、帰国して実家に戻り、今は農家の期間従業員とWebライターで生計を立てている。
学年ビリのギャルが1年間で偏差値を40上げて慶應義塾大学に現役合格したことで「ビリギャル」のモデルとなり、今年5月にコロンビア教育大学院を卒業した小林さやか氏は、「頑張るの定義が人それぞれ違うのではないか。私の個人的な“頑張る・努力すること”の定義では、まず本人の意思があって、できないことをできるようにするためのトレーニングを重ねて成長するプロセス全てが『頑張る』と言える。ゆうへいさんがブログの改善を図っているのも努力にあたると思う」とコメント。
一方で、「結果を重視するのは日本特有の文化ではないか」と疑問を呈する。「受験で不合格だと“報われなかった”と捉えられるが、プロセスに成長があるわけだ。『ビリギャルを見て、商業高校だけど早稲田目指します』という子に対して、先生は『リスクが多すぎるからやめろ』と言うが、何がリスクなのか? 挑戦したほうがその先の選択肢は増えるはずなのに、『努力が報われなかったら虚しい』と思わせてしまう」。
ゆうへいさんはブログやSNSを通して、「自分はこういう経験をして、幸せになれた」という発信をしている。その上で「自分の『頑張る』の定義は、やりたくないことを無理してやること。ブログを書いて経験を伝えることに対して、“頑張っている”という意識はない」との考えを述べた。
才能心理学協会の北端康良理事長は、「理想を実現するために努力したいというのは、人間の基本的欲求だ。ただ、報われない経験が積み重なると、『努力しても無駄だ』と感じてしまう。これを心理学で“学習性無力感”と呼ぶ。こうした経験によって影響を受けるので、努力が楽しいというのは“これまでに報われたことがある”という話でもある」とした。
■“頑張れ=パワハラ”? Tehu氏「『厳しくしてほしい』と言ってきた子が伸びた」
EXx取締役CTOのTehu氏は「企業の40〜50代が言う、上の世代からの理不尽に耐え抜いた『頑張った』ならいらないと思う。ただ、自分たちのようなエンジニアは、頑張らないために頑張る職種だ。楽をするために頑張ってプログラムを書いて自動化することで、むしろ労働生産性を高める。もし頑張らずに成果があがるなら、それはそれで素晴らしいことだとも思う」と話す。
ハラスメントが何かと問題視される中で、Tehu氏は会社の人事部から「インターン生にきつく言うのはやめてほしい」と言われたという。しかし、「社長が本人にどう指導されたいかを聞くと、『誰にも厳しくされたことがないので、厳しくされてみたい』と。そこから強めで愛のあるフィードバックをするようにしたら、すごく成長した」と振り返る。
北端氏は「頑張れ=パワハラ」とされる現状に違和感を示す。若手は自分の才能や可能性に気づきづらいため、「ここはもっと頑張ろう」といったアドバイスが必要だと説く。また、「叱らない上司」は表面上優しく見えるが、逆に言うと成長しない部下をそのまま放置していることになり、今の上司・部下のあり方の方がむしろ冷たいとも言える。
お笑いコンビ・EXITのりんたろー。は「僕はよくトライをさせられて、エラーを起こす。嫌なことなんだけど、そのエラーでしか得られないものがある。以前の自分よりステップアップしていると感じるので、そういう考えもあると知ってほしい」と自身の経験から述べた。
■EXIT兼近「理想が低い人もやっぱりいる」
小林氏は大学院で学んだ幸せの理論として、次のように説明する。「1つはヘドニック・ウェルビーイングといって、時間もお金も有り余って、ビーチでずっとNetflixを見ているような状態。ポジティブな感情しかなく、苦痛は全然ないが、アリストテレスはこれだけでは幸せになれないと言っている。もう1つがユーダイモニック・ウェルビーイングで、学園祭後の高揚感に近い。自分の能力で何かを成し遂げた時のアドレナリンがないと、長期的に幸せになれないと言っている」。
そんな中、EXITの兼近大樹は「自分を含め理想が低い人もいる」と投げかける。「無料でお茶漬けがもらえるなら、それだけで1日過ごしても幸せだ。しかし、意識が高い人からすると、『もっとちゃんとしなよ』『頑張りなよ』と思う。ここに差があると、うまく話し合えない。もちろん、社会を動かすのは“頑張っている人たち”だという理解はあって、僕の中の理想は“迷惑をかけずに生きる”だ」。
これにパックンは、「組織の上にいる人たちの、『同じ給料を払っているんだから、同じくらい頑張ってもらえないか』という不満はどう思うか?」と問いかける。兼近は「それならそうと直接言ってほしい。『全員同じ給料だからここまでやろう』と言われれば、『わかりました。ただそれ以上はやりません』と伝えられる。でも、みんながなんとなくふわっとプラスアルファの働きを求めている」との見方を示した。
北端氏は「とにかく『努力しろ』と言われても困る。何をどうすれば相手の望みにつながるのか。その道筋を上司が作れば、部下にとっても仕事の意味や先が見えてくる。フィードバックが一番重要だ」とした。(『ABEMA Prime』より)
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