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【映像】半数近くが間違えたリーディングスキルテストの例題
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 小学6年生と中学3年生を対象とした全国学力調査で「国語」「算数・数学」の2教科が実施されたところ、中学・国語の正答率が前年度から11ポイント低下し、過去最低となったと話題になっている。文部科学省は、出題意図や難易度が異なるので、単純な比較はできないとしているが、会見では「SNS動画視聴の時間については、中学校で少し増えてきている。ゲームや動画視聴などにとられる時間が多いほど、正答率が低い」とも伝えられた。本当に子どもたちの国語力は低下しているのか。『ABEMA Prime』では専門家を招き、今起きている現象を考えた。

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■正答率わずか57%の問題に乙武洋匡「43%も間違えている。びっくりしちゃう数字」

 番組では、国立情報学研究所の新井紀子教授が開発した「リーディングスキルテスト」の例題が紹介された。出演者たちは全員正解することができたが、この問題の正答率は57%。逆にいえば43%も不正解だった。この結果に作家の乙武洋匡氏も思わず「ちょっとびっくりしちゃう数字。43%の人がこれを間違えるんだ」と驚いた。テストを受けた子どもは、偏差値の低い子どもばかり集めたわけでもなく、満遍なく受けた。結果、正解を選んだ子どもほど偏差値の高い学校に進学しているという。「中学校のクラス内には、こんなの簡単だという方から、ちょっとひっかけなのではないかと思いながら正解する方、それとひっかかって間違える方、よく意味が分からないという感じで間違える方と、幅広く分布している。こういうものがしっかり読めるお子さんは自学自習ができるので、高い偏差値の高校に入っているという実態が分かった」と、正解・不正解のパターンも様々だ。

 このテストで明らかになったのは「失敗する人はキーワード読みである」ということ。単語としてはほぼ同じものが使われているものの、その順番や助詞が違うことで、全く意味が異なっているのに、これに気づかないことで間違えるという。「助詞がどちらからどちらに行っているなど、構造を読む力がない」と、単語レベルでは理解しても、文章として理解できていないことを示した。

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■正しく捉えたい調査結果

 今回、話題になった「全国学力調査」。中学・国語のポイントが過去最低になったことがきっかけだが、この調査結果の見方には注意が必要だ。子どもの教育について取材するライターの飯田一史氏は「全国学力テストは、経年比較できる設計になっていないと文科省も毎回言っている。毎回、出題範囲や傾向、難易度が関わるテストになっていたら、受験者の平均点だけ見て、上がった下がったという意味がない」と冷静な対応を求めた。また、全国学力調査とは別に行われている「経年変化分析調査」を挙げ、「それによると2013年から2021年の間で、学力低下傾向はない。3年ごとぐらいに行われ、今年がその年だが、まだ調査結果が出ていない。騒ぐならその結果が出てからでどうか」と語った。

 これには新井氏も「飯田さんがおっしゃることは、もっとも。昨年に比べて正答率が低かったから、国語に関する中学生の学力が1年で落ちたとは言えない。読書に関しても、アンケート調査をして、読書の量やどんなものを読んでいるかと、読書が得意かということには全く相関がない」と加えた。

 一方で、SNSや動画視聴によるスマホ利用と学力の関係は、別の調査もある。起業家・投資家の成田修造氏は、東北大学加齢医学研究所の川島隆太教授が実施した、スマホなどの使用と学力の関係による調査を例に出した。「スマホの視聴時間が1時間以下か、以上かでかなり明確に差が出る。それは別に算数だろうが国語だろうが、全ての部分で出るということ」と述べた。

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■SNSで溢れる大量な情報「自己流で部分的に読み、勝手に判断している」

 「キーワード読み」が進行する中で、大量の情報が溢れるSNSに触れるとどんなことが起きるのか。新井が懸念するのは、情報の一部だけを切り取って、しかも正しく意味を取らずに受け取ってしまうことだ。「部分的に見て、勝手に自分で判断されている、全体を見ていないなという感じはすごくする。ただ、SNSなどから流れてくる情報量があまりに多いので、人はその洪水の中でなんとかこう読まなきゃいけない。流し読みをする、部分的に読むというような自己流で読んでしまう」と、情報過多社会の弊害を指摘した。また、「その自己流の読みはなかなか治せない。それは『読み』は脳内で起こっているので、隣の人がどういう風に読んでいるか観察できないから。『書く』『言う』は観察できる。リーディングスキルテストをやるようになってから初めて、細かく読みの状態が判断できるようになった。読めないことを責めるより、読めないと明らかに選択肢が狭まってしまうという実態があるので、子どもたちが読めるようにしてあげる教育を提供することが重要」と、課題克服の手がかりを掴んだ状態だと語った。

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■SNS、動画視聴で学力低下の懸念「紙で読み鉛筆で書く方が脳が活発になる」

 では、どうやって「読む力」を高めていけばよいか。兄に勧められた本を読み、学んだという成田氏は紙で本を読み、鉛筆で書くことの重要性を説いた。「パソコンやSNSが発達した社会で伸びる能力もあるが、一方で退化するものもある。決めつけは良くないが、例えば紙の本を読む時とスマホの画面で動画を見ている時の脳波の状況を確認すると、スマホを見ている時の方が、明らかに前頭葉という計算能力などを司るところの活動量が減っている。紙の方が圧倒的に活発になる。計算も自分で鉛筆を持っている時の方が圧倒的だと、データとして出ている」と、従来の学び方を推奨した。

 また現在では、小学校からタブレットなどの端末が生徒に配布されることもあるが「学校現場もかなり適当。GIGAスクール構想とかでパソコンやタブレットをばらまいているが、動画やブラウザのコントロールをしていないから、子どもたちが永遠に動画を見られる環境がセットされている。それで崩れていった子たちも僕の周りにいる」と警戒心を示した。

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■日々のコミュニケーションの重要性とは

 実際に教育の現場に出た経験を持つ乙武氏は、子ども同士のコミュニケーションの重要性も指摘した。「ちょっと違う角度からお話しさせていただくと、私は小学校の教員を3年間やっていた。学術的な視点ではないが教育界でずっと言われているのは、少人数学級とか、もっと言えば学年に1クラス、6年間クラス替えがないという環境では国語力、語彙力が乏しくなる。固定化された人間関係だと、皆まで言わなくても、あいつはこういうことを言いたいんだなとすぐにわかってもらえるから、最後まで丁寧に言葉を作らなくていい」と、言葉を発する機会も量も減るとした。

 逆に複数のクラスがある学校、生徒が多い学校であれば、「委員会だ、クラブ活動だといって、自分のクラスじゃないお友達ともしゃべるし、2年経てばクラス替えもある。自分が普段しゃべらない人とのコミュニケーションが増えれば増えるほど、きちんと相手に伝わるようにしゃべらなきゃいけない場面が増えていくので、語彙も獲得していく。大人に当てはめてもそうで、今の若者はLINEで『了解』のことを『りょ』とか、もっと略した『り』で済ませている。ただし、やはり違う世代とコミュニケーションするなら『了解しました』『承知しました』と送らなければいけない。いろいろな世代、いろいろな層の人とコミュニケーションを図るのが、国語力の育成に大事」と提案していた。
(『ABEMA Prime』より)

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