農業には「重労働の割に儲からない」といったイメージがあるが、いまやこれは昔話となっている。トヨタやNTT、楽天などの大手国内企業が近年、農業に続々と参入し、現在4.5兆円の産業規模から、大手シンクタンクの試算では、25年後におよそ倍の8兆円産業に成長する見通しだ。そんな波に乗って、「儲かる農家」を目指して挑戦する、2人の若手農家を『ABEMA Prime』で取材した。
なぜ農業がブルーオーシャンなのか。その一因には、高齢化によって、新しいビジネスアイデアに乏しいことによる、ライバルの少なさがある。また、加工食など輸出ビジネスで「JAPANブランド」がチャンスなこと、2050年問題で世界人口が100億人を突破し、「食の争奪戦」も予想されるなか、輸入依存から国内農業重視に移行する動きが出ている。
■農業歴わずか5カ月 東大卒の25歳がSNSで大バズリ「僕の物語を発信している」
いまSNSで大バズりしているのが、米利休(こめのりきゅう)氏。東京大学卒業後、祖父の田んぼを受け継ぎ、半年前に米農家となった25歳の男性だ。「農業はやり方によっては儲かる」と語る米利休氏の戦略は「脱・農協」SNSでの直販だ。これまで多くの農家は、採れた作物を農協などに卸して終わりで、自身では米や野菜を作るのみだった。
しかし米利休氏は、農業にかける思いや、日々の作業をSNSで発信することで、ネットを通じて消費者とつながり、新規販路を開拓する戦略をとっている。「SNSで認知を拡大して、僕の思いや努力を共感してくれる人にお米を届けたい」という。
ファンになってもらい、その付加価値を「お米」に乗せることで、従来よりも高価に販売することも可能にした。「東大卒」のブランドも用いて、SNSアカウントは開設2カ月で、フォロワーが14万人を超えた。また農業歴も5カ月の新米ながら、DMには問い合わせが殺到している。「従来のやり方だと難しいが、新しい市場を開拓する考え方であれば、農業はブルーオーシャンだ」。
農協などに卸すと、相手の価格に合わせる必要がある。「農家にとっては厳しいギリギリの価格になるため、自分で値付けしたいと直販を始めた。SNSで認知拡大し、自分の姿勢に共感してくれるファンに直接売ることで、『自分の価格』で勝負をかけた」とポイントを明かした。
秋の新米シーズンに、初めての米を発売予定だ。「手応えはある。SNSのコメントやDMで『買いたい』という声が集まっている。一般的な農薬・化学肥料の基準より半分以下で生産する“特別栽培米”が売り」と、自分の挑戦を乗せて販売する。
農家の道を選んだきっかけは、昨年の秋ごろ、実家の農業が廃業危機になったこと。「祖父が高齢になり体が厳しいことと、経営状況の悪さから、『あと1年もつか』という状況だった。それを聞いて、今まで何十代と守ってきた農地や伝統を失う悲しさを感じて」農業に興味を持った。
調べていくうちに、「高齢化が進み、業界人口が減少すれば、生産物の価値は相対的に上がる」と予測した。「勝てる時代が来ると感じた。生産する『農作業』の面では勝てないが、同時に新たな販路を開拓すれば、実家を経営改善し、さらに大きくできるのでは」と考えたという。
農業では「担い手不足」が指摘され続けている。「農作物の需要低下より、生産者の減少が大きく、さらに加速していくだろう。一方で、個々の生産効率や生産規模は上がるため、担い手が減っても、作物の水準はある程度保てるのではないか」と勝算を見ている。
■元JA職員が個人経営から法人化で大成功 売り上げはわずか3年で11倍の4.5億に
茨城県で長ネギ農家を経営する山﨑康浩氏(35)は、農業参入から3年で、4億円以上を売り上げる「新時代の豪農」だ。「1年目が4000万円、2年目が1億5000万円、今年植えたネギが順調に生育すれば、来期は4億5000万円」と大きく伸びる。
山﨑氏の戦略は「脱・個人農家」農業法人での勝負だ。これまでの農家は、家族単位で行う個人事業主が多かったが、現在「儲かる農家」のほとんどが法人化して、会社組織で農業を行っている。「一気に面積を拡大し、売り上げを一気に上げたかった。面積を拡大するには畑が必要だが、そのためには資金が必要。しかし借りに行っても、個人には貸せない」と言われ、会社にした。
銀行からの融資で畑を拡大し、スタート時は1カ所だった農地が、今では8倍の東京ドーム7個分まで広がった。面積にともない、売り上げも急増した。今後はさらなる設備投資を計画し、加工食品への進出も視野に入れている。「農業は可能性だらけで、まだまだ成長する業界だ」と期待は大きい。
法人化のメリットとしては、融資に加えて、社員育成もある。「今までの農家は『作業場が汚い』といったイメージがあったが、『ここは会社だ』とルールを定められる」。実は山﨑氏は元JA職員で、現在は「農協の長所を生産者側から持ち上げる」というスタンスで取り組んでいる。
前職を生かして、他の農家のサポートも行う。「年配の農家から『いまから高価な農機を買っても……』と、作業代行を依頼される。仕事として引き受ければ、それに対する助成金も出る」と、“副収入”もある。
農業コンサルタントの山下弘幸氏は、山﨑氏の取り組みを「前例のない成長スピードだ」と評する。「『現状維持』が美徳とされる農業で、『前年比アップ』を目指す人は珍しい。『選択と集中』でネギに特化して、個人ではなくチームを組んで、ビジネスとして市場を取りに行っている点も、普通の農家では考えられない」と目を丸くした。
山﨑氏の農業法人「BRAVE」は、現在23人の従業員を抱える。「野菜業界では、従業員×1000万円で上出来だ。本来であれば、23人の従業員で2億3000万円が合格点だが、その倍の4億5000万円を見込んでいる。今までの農業の常識からすると、群を抜いている」と高く評価した。
■新規参入には農地売買に関する課題も
山下氏は「農業にある『きつい』『つらい』のイメージは事実だが、新たな農業のチャレンジャーが増加している現状もある」と指摘する。新規参入する上で、一番のハードルは農地の確保だ。「農地は一般的な不動産とは、歴史的背景から異なる。小作人に開放されて以来、自分の身内で手放さず、流動しない。このネックが解消すれば、農業を始めやすくなる」と、課題を指摘した。
パックンは、来日して最初に住んだ福井県での思い出を語る。「田んぼを家族ごとに経営するのを見て、素晴らしいと感じたが、アメリカと比べて生産性が悪いなとも思った。小さな田んぼではなく、広い畑の方が、大きな重機も使える」と、当時を振り返った。
一方でアメリカ式農業の問題点も語る。「かつては個人経営で、頑張った分だけ儲かったが、今では経営者は儲かるものの、従事者は雇われで低賃金だ。なるべく安い人を使って、作物を大量生産するが、利益は経営者に集中する。日本でも大手資本の新規参入が増えると、日本の農業の良さが失われるのではないか」とも語った。
山下氏は「日本の農地が流動しない背景には、資本家が農地を持つことへの懸念がある」と説明する。「資本家だけが勝つ仕組みではいけない。新しいプレーヤーの参戦に可能性を感じている。農業業界はゲームもルールも、プレーヤーも変わって、ブルーオーシャンになっていく。そこに気づいた人たちは、もっと成功していくだろう」と、今後への期待を述べた。
(『ABEMA Prime』より)
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