時と場合によっては、長く伝えられた格言を破ってでも活路を見つけ出すのがトップ棋士だ。将棋界の早指し団体戦「ABEMAトーナメント2024」本戦トーナメント1回戦・第2試合、チーム永瀬 対 エントリーチームの模様が8月10日に放送された。第1局は、チーム永瀬のレジェンド森内俊之九段(53)が、激戦となった終盤、玉の真横に飛車を配置する一手から一気に勝負をつけることに。「玉飛接近すべからず」という格言をもろともせず、鮮やかな勝利を収めた。
「玉飛接近すべからず」とは、大きな攻撃力を誇る飛車だが、斜めの利きがないことから接近戦に弱く、玉の近くに置いてしまうと、同時に攻められてしまい不利を招く、という意味合いの格言。強力な一手「王手飛車」も頻出してしまうことから、玉と飛車は、なるべく離しておくのがよいとされている。ただし、格言を守っていれば勝てるというほど、将棋も甘くない。ケースによっては玉の真横に飛車を置く決断に迫られることもある。
第1局は森内九段の先手番で居飛車・銀冠にすると、後手の井出隼平五段(33)は四間飛車に美濃囲いという対抗形に。後手から積極的な仕掛けが入るものの「鉄板流」とも呼ばれる分厚い受けに定評がある森内九段が跳ね返し、徐々に有利を築いていった。
守るばかりだけではなく、攻めに転じた時の切れ味もまた、森内九段を永世名人にした要因の一つ。最終盤、井出五段が森内玉に猛攻をしかけた際、7八の地点で森内九段が相手の成銀を玉で取るか、飛車で取るかの2択を迫られた。格言通りでいけば玉だったが、森内九段の選択は飛車。結果、玉と飛車が真横に並ぶという格好になった。
解説していた真田圭一八段(51)も「普通は同玉」と語っていたが、飛車で成銀を取ったことに「やりましたね。この飛車を縦に使おうということ」と、7筋から飛車を攻撃参加させようという意図を解説。竹部さゆり女流四段(46)も「玉飛接近すべからずと言いますが、森内九段ならなんとかしてしまいそう」と語っていた。
すると、やはりこの一手が妙手に。井出五段の攻撃をしのぎ切り、飛車の利きも活かしながら6筋、7筋で逆襲すると、ここからは森内九段の鮮やかな寄せが炸裂。109手で快勝を収めると、ファンからも「流れは完全に森内」「森内、強すぎる」「ウティかっこいい」と盛り上がりの声が届いていた。
◆ABEMAトーナメント2024 第1、2回が個人戦、第3回から団体戦になり今回が7回目の開催。ドラフト会議にリーダー棋士11人が参加し、2人ずつを指名、3人1組のチームを作る。残り1チームは指名漏れした棋士が3つに分かれたトーナメントを実施し、勝ち抜いた3人が「エントリーチーム」として参加、全12チームで行われる。予選リーグは3チームずつ4リーグに分かれ、上位2チームが本戦トーナメントに進出する。試合は全て5本先取の9本勝負で行われ、対局は持ち時間5分、1手指すごとに5秒加算のフィッシャールールで行われる。優勝賞金は1000万円。
(ABEMA/将棋チャンネルより)