大阪地裁で今月、ある「性行為」をめぐる判決が言い渡された。「お互い同意の上でセックスしたとしても、避妊を拒否すれば罪にあたる」という内容だ。判決文によると、原告の女性は2020年、元交際相手の男性と再会した。男性は既婚者であることを隠して、女性と性行為に及ぶ。その際、女性は避妊具の着用を求めたが、男性はそれを無視。女性は妊娠して、流産した。翌年にも女性は、男性と性行為に及んだが、この時も男性は避妊具をつけることを拒否し、再び妊娠した。
その後、女性は出産。男性は2度目の妊娠時には離婚していたが、「既婚だから認知できない」と主張した。女性は「既婚者だと知っていたら性行為に及ばなかった。貞操権を侵害された」として、173万円の損害賠償を請求。大阪地裁は「避妊の求めに応じず性交渉を続行することは、女性の性的自己決定権の侵害で違法」として、慰謝料など74万1417円の支払いを命じた。
判決を受けて、原告代理人の向井大輔弁護士は「避妊行為をする、しないというところに関しても、性的な自己決定権があると正面から認めた点が画期的である」と語る。性交渉の同意・不同意に、避妊の有無が入っていない現状もある中、『ABEMA Prime』では避妊について考えた。
■女装家セラピスト「女性の性行為後の心理的欲求は男性より強い」
国際協力NGO「ジョイセフ」による「性と恋愛2023『避妊・性感染症予防の本音』」によると、女性の避妊しない理由は、1位が「相手に言いづらかった」、2位が「頼んだが相手がしてくれなかった」、3位が「妊娠しても大丈夫だと思った」との結果が出た。
また、「妊娠が目的ではなく避妊をせずに性交渉したことがある」と答えた15〜29歳は、全体が34.3%、男性が29.8%、女性が39.0%、男女どちらでもないが23.3%となった(※いずれも膣外射精は除く)。
ジョイセフ事務局次長の小野美智代氏は、性的な自己決定権について「男女とも『産む』『産まない』『今は産みたくないが、いつか産みたい』などを自分で決められることだ」と説明する。「性的同意とは別に、避妊の同意も、しっかり得られることが重要だ。どんな避妊法を使っても100%はない。妊娠や感染症にかかる可能性もあり、カップル同士が『その先』を話し合った上で関係を持てると良い」と語った。
男女の性や恋愛問題の相談を受けるセラピストで、男女100人以上との性交渉経験を持つ、バイセクシュアルで女装家のクノタチホ氏は、「男女間の価値観の違い」に触れる。「女性は性行為後に、精神的に支えてもらったり、気持ちを大事にしてもらったりしたい心理的欲求が強い。避妊せず受け入れることで、『大事にしてもらえる』と解釈する場合もある。その場で同意を取っていても、納得がいかなくなることもあるのではないか」と述べた。
女性側の心理については、「『自分はこう感じている』が顕在的で、『どう向き合うか』の課題が明確な傾向がある」と説く。「カウンセリングの来訪者も『関係を続けたい』と『言いたいことが言えない』の両方に向き合っていて、そこでも男女差を感じる」とした。
■避妊したがらない男性「リスクある要求を受け取らせて自分の存在価値を認めている」
前述のジョイセフ調査では、男性の避妊しない理由も集計している。こちらは1位が「快感が損なわれるから」、2位が「盛り上がって忘れてしまった」、3位が「しなくて大丈夫だと思った」との結果だった。
クノタ氏は、かつて女性と避妊せず、性行為を行った経験がある。「自分の本心を抑圧して、社会に適応しようと一生懸命だった時代に、自己嫌悪になった。女性にリスクある要求を受け取ってもらって初めて、自分の存在価値が認められるような心理状態」と振り返った。
また、「人生の後半でバイセクシュアルだと自認して、初めて受け入れる側の心理を掘り下げた」という。「男性は性衝動と、その心理に無自覚だ。男性同士の“性の会話”は、おふざけや自己顕示になりがちだが、性的欲求は根源的な心理を表している。男性を性衝動から自己カウンセリングにまで進められれば良いと感じる」と説明した。
小野氏は「ジェンダーギャップは、女性差別の問題だけでなく、男性にも関わっている」と指摘する。「男性は若い頃から、性に関する相談相手がいない。女性は半数近くが母親に相談しているが、男性は半数以上が自分一人で悩む。それが、年齢が高くなるにつれ、男性の自殺率にもつながると考えている」。
男性器へ着用するコンドームに、避妊を頼っていることも背景にある。「男性主導で避妊を任せていることが、女性が『相手に言いづらかった』理由になっている。男性は『快感が損なわれるから』を理由に挙げていて、女性も快感を得てもいいはずなのに、避妊に関しては受け身になっている」と加えた。
■夫婦間にも避妊の問題“多産DV”につながるケースも
どちらかが性交渉に乗り気でない場合もある。ジョイセフの「性と恋愛2023『性・セックスの意識』」調査によると、15〜29歳のうち、既婚者(1311人)の56.8%、未婚者(4489人)の33.3%が「気が乗らないのに性交渉に応じた経験がある」と回答した。
NPO「あなたのいばしょ」理事長の大空幸星氏は、「性暴力であると認識した上で行為に及ぶ人々」の存在が問題だと指摘する。「夫婦間で避妊拒否すると、『多産DV』が起き得る。これは性的DVとして認められているが、暴力行為だとわかっているからこそ、相手を服従させる手段として選ばれている現状がある」。
これまで小野氏が出会ってきた女性も、「結婚したら受け入れなければいけない」と感じている傾向があった。「自分が気乗りしなくても、夫からの求めには答えなければいけないと思っていた」。
■男女で異なる性交渉への向き合い方とは
リスクを冒すことで、愛情を感じる人も存在する。クノタ氏は「暴力性に基づいて性行為をすると、男性も自己嫌悪になる。『自分自身が傷つく』と、男性が気づくことが大事なのではないか」と分析する。
大空氏も「避妊具を使わないと、男性も性感染症に感染する可能性があり、身体的リスクがともなう」と語る。「最近は『他者的な権利擁護』ばかりが言われがちだが、自分も相手も、互いに自己決定権を有して、初めて対等な立場になる。『強い男性は、弱い女性に優しくしなくては』ではなく、互いが対等だからこそ、権利擁護の意識を持たなくてはいけない」。
(『ABEMA Prime』より)
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