24日に大阪・大和アリーナで開催された「3150×LUSH BOMU vol.1」で異色のボクサー、健文トーレス(36歳・TMK)が7年8カ月ぶりに日本のリングに立ち、WBOスーパーフライ級1位で無敗の強豪、KJ・カタラジャ(フィリピン)を2-1の判定(96-93、96-93、94-95)で撃破。世界1位を連破し、世界への道を手繰り寄せた。歴史的番狂わせの直後、勝利者マイクで「(被害に遭わせてしまった)過去を忘れず、一生懸命頑張ります」とボクシングにまい進することを大勢のファンの前で約束。会場から大きな声援が送られた。
【映像】劇的な大番狂わせ! 話題のスピーチも
かつて将来を嘱望されたホープである健文は道を踏み外し、犯罪に手を染め、合わせて11年も服役した。それでも出所して復帰を果たすと今年5月にWBOバンタム級1位を1ラウンドで撃破。不屈の闘志で世界を狙える位置まではい上がってきた。
序盤から積極的に前に出た健文だったが、途中、ゴング後のパンチによりふらつく場面があった。このパンチに対して、カタラジャは1点の減点を受ける。これが、拮抗した試合で大きな影響を及ぼした。
偶然のバッティングで目じりの上をカットしたカタラジャ。一方、健文は終始、前へ出てプレッシャーをかける。その後も、明確な有効打を被弾することなく、手数で上回り、歴史的な番狂わせを演じて見せた。
判定を聞いた健文は試合後、勝利者マイクで「まずは皆さん、僕は約8年ぶり、この日本のリングに立つことができました。JBCの皆様、ご寛大な処置を下していただいて心から感謝します」と関係者に感謝の言葉を述べると深々と一礼。
さらに「一時期、というか長い時期、道を逸れ、施設の方に居ました。今まではそれを隠し、ボクシング、生活をしてきましたが、これからは少しずつ胸を張れるようボクシングに一生懸命打ち込みます」と挨拶。
最後には「僕が被害に遭わせてしまった被害者の皆様、僕がこうしてスポットライトを浴びるのは悔しい思いをされてると思います。しかし、僕は(被害に遭わせてしまった)過去を忘れず、一生懸命頑張ります。こんな僕ですが…応援のほどよろしくお願いします」と被害に遭わせてしまった方々への配慮も忘れなかった。
健文は現在、一人暮らし。朝起きてランニングをし、介護の仕事に出かけ、終わったらジムに行ってトレーニングをする。彼女はいるが、一緒には暮らさない。残り少ない選手人生だからこそ、ボクシングに100%集中し、日々のルーティンを崩したくないからだ。
ただし、小学校1年生になった娘だけは例外だ。娘とは別々に暮らしているが、彼女の要望はできる限りかなえたいと考えている。2度目の逮捕は、あろうことか娘が生まれたわずか2週間後だった。
そんな追い込まれた状況で娘の名前を必死に考えた。自分は夢を壊してしまった。だから娘には「夢に向かって強く生きてほしい」という思いを込め、夢という文字を入れて夢妃(ゆめひ)と名付けた。
そんな健文は試合前に語った。
「自分が夢を壊したから娘の名前に“夢”をつけるって、それだけじゃただの自己満足じゃないですか。だから自分がしっかり夢をかなえて、しっかりやりきって、いつか娘に名前の由来を説明したいと思ってるんです」
何度もあきらめかけた世界タイトルマッチ挑戦に手をかけ、自分の存在証明、最愛の娘のために健文の世界への挑戦は続く――。