「令和の米騒動」はかなり稀な現象?米流通評論家「不作とは言えない」心理学者「重要なものが曖昧だとうわさが流れやすい」
【映像】見た目でわかる?1等米と2等米の違い
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 日本の主食、米の品薄によりSNSには「近所に売ってない。新潟まで遠出して買うしかない」「買い占めとか転売ヤーのせいなら、やめてほしい」などと、悲痛な声が上がっている。農水省が発表している米の在庫量を見ると、毎年200万トン前後で推移しているなか、今年は156万トンと、例年より40万トン近くも落ち込んだ。

【映像】見た目でわかる?1等米と2等米の違い

 農林水産省は「需要との比較でみると、在庫量は決して少ないわけではない」「秋に新米が出回れば、品薄は解消されてくる」と説明するが、米の品薄は続く。昨年の猛暑と渇水による品質悪化で、市場に出回る量が減った一方、訪日外国人の増加で、外食での米需要が増したことが原因とも言われている。加えて、南海トラフ巨大地震の注意情報が出たことで、備蓄した人が急増している。つまり一時的な需要の伸びが原因なのだが、実際に一部店頭に米がないのは事実だ。『ABEMA Prime』では、「令和の米騒動」が起きた理由や解決策を考えた。

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■専門家が語る流通のメカニズム「主食用は量的には取れているが…」

 米専門店のCOOで、米流通評論家の常本泰志氏は「令和の米騒動」に4つのプロセスがあると解説する。まずは、自衛隊や病院、役所の食堂などでよく使われる安価米(ふるい下米)と呼ばれる米が、昨年非常に少なかったこと。続いて、安価米が足りなくなったため、買っていた人たちは、上のランクの米を買う。すると、スーパーに並ぶ米にも連鎖して非常に少なくなる。そこに南海トラフ臨時情報等での購入増が重なり、「騒動」と化した。

 収穫された玄米はふるいにかけられ、1.7~2.0ミリ以上を「主食用」としている。ふるいの下に落ちた“安価米”が、ふるい下米で、1.7~1.9ミリは主食用(主に業務用に)や加工食品用(味噌・米菓)に、1.7ミリ以下は加工食品用(ビール等)に使い分けられる。

 常本氏は「平成の米騒動」と比較する。「1993年当時は梅雨が明けず、数量が少なくなった。2023年は日照だが、農水省が『作況指数101』としていることから、量的には本来取れているはず。ここに当てはまらない米が少なかったのが、本当の要因」だとした。

 その「当てはまらない米」が、安価米だ。「収穫後にふるいにかけて、なるべく異物を抜いてから出荷する。ふるいの下に落ちた米は、作況指数に反映されない。これが農水省データでは、前年比マイナス19万トンとなっている」と説明した。

 安い米にもニーズがある。「公共機関の入札など、安くないと落札できないケースがある。しかし、安い米の量が少なかったため、上のランクの米で補充した。すると、さらに上のランクに連鎖していき、“主食用”を食べられてしまった」のが、米不足の一要因だ。

 ではなぜ、安価米が不足したのか。「茎が枝分かれして大きくなる“分けつ”が、昨年そんなに良くなかった。株が思っているより小さくなり、その分、きれいなお米はできやすくなったが、小さい米はできなくなり、ふるい下米の量が減った」と分析した。

 株が小さくなったのは、気象要因だと推測する。「田植えをして、横へと成長しようとしているころに、雨が降らない時期があった。乾燥により田んぼの土が割れて、稲の根が切れてしまうと、横成長が止まる。分けつ途中の乾燥は、株数が減った要因としてあるだろう」。

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■なぜ店頭に米がないように見えるのか

 米の生育状況に加えて、南海トラフ巨大地震の注意情報を受けての“買い込み”が重なった。「買い込む人が増え、その様子がメディアで報じられると、連鎖して購入量は増える。通常より自宅の米が多い人もいるはず」と述べた。

 もうひとつの要因として「“単一原料米”に寄りすぎている」現状がある。「一般消費者が『○○県産』を欲しがるようになったが、大手卸売業者が流通系量販店に卸す段階で、チェーン店向けに集められる量がない。出せても数店舗程度の量にしかならないため、一定量が確保できるまで出荷できない」と、事情を説明した。

 これらを背景に、米の需要は今期、10年ぶりに前年を上回った。「前年比6%、約11万3000トンが増えているが、ふるい下米が約19万トン減った分を補っているため、実質的な数字は下がっている。農水省は人口減と少子化で、年間10万トン減を推計している。ここまで上がるのは特異的だ」。

 「米不足」には地域差もある。「東京や大阪はほぼないが、愛知にはちょっとだけある。なぜかと言うと、周辺に生産地があるから。新潟にも比較的残っていると聞いている」。そして「多少値段が上がっても、米はそんなに高くない」食糧でもある。「若い農家をどれだけ育てるかを考える必要がある。平均年齢が68歳を超えている状況を、少しずつ変えていくきっかけになった」と語った。

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■「稲」「米」ではなく大好きな「ご飯」がなくなる不安がパニックを招く

 立命館大学のサトウタツヤ教授が、パニック心理の観点から語る。「英語ではriceと呼ぶものを、日本語では『米』『イネ』『ご飯』と表す。常本氏は米とイネの話をしていたが、ご飯も重要な存在だ。社会心理学では、『重要なものが曖昧だとうわさが流れやすい』と言われている。消費者が米の有無がわからなくなると、重大な問題になる」と述べた。

 人々は、植物であるイネや、販売される米よりも、食卓にのぼる「ご飯」を重要視する。「メディアで報じられると、『ご飯』を食べたいと買いに行く。店頭にないと『やっぱりなかった』となるが、あっても『本当はないかもしれないから買う』となる」と心理状態を解説した。

 社会心理学では、自分の行為が結果を作り出すことを「予言の自己成就」と呼ぶ。「メディアの影響も強いが、ひとり一人が重要な問題と捉えることで、『予言の自己成就』が起きているのではないか」。

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■「米騒動」まではメディアが言い過ぎ?「9月の中頃には解消する」

 あらゆる要因が絡み合った結果が、今回の騒動につながった。常本氏は「全てのタイミングが悪かった」と振り返る。「お米が本格的に取れるのは9月から。8月のお盆前後にパニックが起きだしたが、卸売はお盆休み、運送会社もトラック問題で、誰も運べない状況。ニーズが大きすぎて無理な状況になり、スーパーから消えた」。では肝心の米騒動は、いつ幕を閉じるのか。「9月の中頃には、首都圏でも関西圏でも解消すると思う」と予測した。

 背景を知るにつれ、「令和の米騒動」の表現と実情のギャップも感じられる。サトウ氏は「メディアは『米の在庫がないところ』ではなく、『あるところ』を映すべきだ」と語る。「『米騒動』は大正時代の打ち壊しのイメージではなく、準備運動のようなネーミングになっている」と問題点をあげた。

 今回の事案は、安価米の不足から始まったが、今後も再発する可能性はあるのか。常本氏に聞くと「かなりまれな現象だ」と語る。「需要が出てきて、農協団体もギリギリのラインをねらって、プラスになるよう生産調整を行っている。一方で、農協に関係ない農家は『もうけどころだ』と動いている。その分が増えると、需要に対する供給量は、とりあえず今年は多くできる」。
(『ABEMA Prime』より)

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