様々な自治体で導入されている、勤務時間の20%を自分の担当業務以外の取り組みにあてる「20%ルール」。職員が担当業務にとらわれず、活動意欲や専門性を発揮してもらうことが狙いだが、取材を進めるとそのメリットと課題が見えてきた。
【映像】本業外の取り組みでモチベが上がる? “20%ルール”のメリットとは
福井県福井市では、9月1日から「福井市版20%ルール」をスタート。市の職員が週5日の勤務時間のうち20%以内を担当業務以外に充てることができる制度だ。
この制度をスタートさせた目的について、福井市総務部職員課の小谷(おだに)伸一郎さんは「職員が担当業務にとらわれず、活動意欲や専門性を活用し、市政の課題解決につなげるのが一番の狙い」と語る。
「福井市版20%ルール」の利用方法は2種類。1つは「指定課題解決型」。課題を抱える各課が組織横断的なワーキングチームなどを作り、所管以外の職員を公募するもので、男性育休取得の促進などが想定されるという。
もう1つは、「自主提案型」。職員が自発的に課題やテーマを設定し、ワーキングチームを結成。若手職員の提案を事業化する「チャレンジみらい予算」などの活用が想定されている。
小谷さんは「この制度によって、さまざまな市の課題に対して、職員は本当に自分がやりたい仕事に携わることができる。その結果、職員の意欲が高まり、いいモチベーションでパフォーマンスを発揮してくれると思います」と期待を寄せる。
このようにしてスタートした「福井市版20%ルール」だが、実は福井県では2021年から導入されているという。福井県の「ふくい式20%ルール」は、「指定課題解決型」と「自主提案型」に加えて、専門分野のスキルを持つ職員がスポット的に参画する「庁内セカンドワーク型」の3種類がある。
以前は民間の会社でシステムエンジニアの仕事をしていた福井県総務部人事課、企画主査の伊藤啓二さんも、この制度を利用した一人。きっかけは「指定課題解決型」によるオファーだった。
「会計課が行なっている住民税の作業がどうしても手間で、どうにかできないかとなっていたところに、私がその問題を解決するスキルを持っているということで打診が来ました」(伊藤さん)
これまで、職員の給料から住民税分を控除し、各市町(しまち)に収める際、市町の想定額と実際に給与から控除した額が合わないことが多く、その度に会計課の職員が1件1件確認していたが、それを伊藤さんらのチームが「具体的に誰がどういう要件でその差が出ているのか、についてわかるように(仕組み化)した」という。
伊藤さん以外にも、「指定課題解決型」では、子育て期の職員を中心に所属の枠を超えて人選した「新たな子育て支援検討タスクフォース」を結成。雨の日でも通える、全天候型の子どもの遊び場の整備・改修を全市町で実施といった活動例もあるという。
20%ルールを利用した職員からは、「自分自身の興味のある分野で政策提言ができたので、仕事に対するモチベーションが向上した」「20%ルールを使うことで、自身のキャリアを有効に活用できた。視野が広がり、本来の業務の立案にも活きている」といった声が上がっているといい、伊藤さんも「専門性のある仕事を請け負うことで、会計課の担当者の残業時間が減っているなど効果は感じている」と語る。
伊藤さんは上司の声掛けもあり、20%ルールによって本業に差し支えるようなことはないようだが、以下のような課題も感じている。
「(職員自身が職場の課題について)知ってはいるけれど、じゃあ具体的に何ができるんだとか、(制度を活用し、担当業務外の取り組みを行うことで)自分にとってどう(メリットに)なるんだ?というイメージが多分できていないという雰囲気は感じます。不便に思っている人が『何とかならないか』という声を上げて、そこに対して(解決)できる人が『じゃあやってやろう』と、気軽に言えるような環境が求められていくんじゃないかなと思ってます」
それでも、「自分のスキルや知識を活かすことができるのも一つですし、それによって相手からも直接『課題が解決できた』とか『業務が楽になった』という感謝の気持ちが直にきているので、それがすごく身にしみるといいますか、やってよかったなと思います」と充実感を語る伊藤さん。
これらの取り組みについて、日本大学危機管理学部教授/東京工業大学特任教授の西田亮介氏は「働くことの意義や、やりがいを求める人が若い人を中心に多い中、役所の業務は“やらなければいけないこと”が決まっていることが多い。そうした中で、20%ルールの下で裁量性の高い仕事や試行錯誤できる余地があることで、モチベーションが上がる職員が出てくるとすれば好ましい」とコメント。
また、業務内容を明確にしないまま採用を行う“メンバーシップ型”雇用が多い日本において、20%ルールのメリットについて以下のように論じている。
「日本の職場は、職務内容を明確化した“ジョブ型”ではなく、全体としての業務は定まっているが、誰がやるかについてあまり明確になっていないこと(メンバーシップ型雇用)が多い。その結果、本当は自分はやりたくないのに(特定の業務を)やらざるを得ないことがよくある。その際、それでは転職すればいいのではと思うかもしれないが、なかなかそこまで踏み出せないという多くの職員の方にとって、こういうルールがあることで、自分のやりたいことと、 やらなければいけないことにうまく折り合いをつけるきっかけにもなるかもしれない」
(『ABEMAヒルズ』より)
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