特殊詐欺の拠点が、いまフィリピンからカンボジアへ移行しつつある。SNS上には「海外出稼ぎ」という文字がおどるが、日本人によるカンボジアでの特殊詐欺事情を取材した泰梨沙子氏によると「楽しくリゾートで高収入みたいなポジティブな条件で出ているところが多い」が、その実態はほど遠いという。
現実には「パスポートを取り上げられ、拠点に連れて行かれる。場所にもよるが、ほとんど監禁状態で、外に出してもらえない」。さらに現地では、「警察に協力しようものなら出所後に制裁を受けてもらいますのであしからず!」といった詐欺マニュアルも流通しているそうだ。
カンボジアでは10月7日、日本人男性12人が日本に移送された後、詐欺の疑いで逮捕された。いわゆる「かけ子」役で、いずれも「嘘の求人」にだまされたとみられる。
4月にはカンボジア南部のシアヌークビルを拠点とした日本人詐欺グループが摘発された。特殊詐欺を強要された日本人男性が、大使館へ送ったSOSから発覚。このグループは1年半で107人から、約10億7000万円をだまし取ったとみられている。実行役をスカウトする「リクルーター」も逮捕され、そのうちの1人、吉田武生容疑者は地下格闘技界では「レジェンド」とも称される人物だった。
なぜカンボジアに移りつつあるのか。泰氏によると、「2020年ごろから日本の反社が本格的に進出した。在カンボジア日本大使館が、邦人被害の事案を初めて認知したのは2021年で、2022年6月には大使館が注意喚起を出している」という。
4月に摘発されたグループがあったシアヌークビルは、中国による投資で「第2のマカオ」とまで呼ばれたリゾート地だ。しかし2020年にカンボジア政府がオンラインカジノ禁止令を出したことで衰退し、新型コロナで廃墟化が加速した。
現地事情に詳しいジャーナリストの鈴木譲仁氏は、「シアヌークビルが“犯罪者の温床”だったカンボジアを次のフェーズへ持っていった。日本人犯罪グループも、不動産が下がり、そこを使って特殊詐欺をやろうとしている」と説明する。
2023年には、8月にはカンボジア北部のホテルを拠点にしていた日本人男性7人のグループを拘束し、9月には首都プノンペンのアパートで日本人28人が拘束、そのうち3人は逃亡して、国境を越えてタイに逃走したとみられる事件が起きた。
これらは氷山の一角だと、泰氏は考えている。「プノンペンの日本食レストランから、詐欺が行われていたマンションに、毎日弁当が配達されていた。9月に摘発されたのは20人以上だったが、弁当は150個以上作られていた。毎日同じ数が出るのは不自然。詐欺要員はまだいると現地では話している」。
カンボジアが犯罪拠点として拡大した裏事情を、鈴木氏は「法務大臣クラスから末端まで、すべてがワイロ社会だ。アジアでも抜きんでて司法機関が腐敗している。国境が隣接する国と、出入国管理や資金移動がルーズにできてしまう。マネーロンダリングもしやすい」と明かす。
そんなカンボジアで現在、圧倒的な力を持つのが中華マフィアだという。日本で求人を見つけるも、応募先が中華マフィア系組織だったケースもある。泰氏は「中国などの犯罪組織は、本当にひどい。逃げようとしたら命がなくなるか、『国に残した家族を殺すぞ』と脅迫される」と実情を語る。
鈴木氏は「政権と一体化した中華マフィアがいるが、この傘下に彼ら(日本のトクリュウ)も入っている」と話す。「彼らはスケールの大きいオンライン詐欺をやっている。表のビジネスで、カンボジア政府と一体化しているため、彼らに守られると警察は手を出しにくくなる」との懸念を示した。
こういった背景を踏まえ、リーゼント刑事こと元徳島県警捜査一課警部の秋山博康氏は「警察組織だけでは無理。国と国で話をして捜査協力をしてもらうということが、これからは必要だと思う」と語った。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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