近年、街の過度な明かりによって星空が見えなくなる「光害(ひかりがい)」が、星空だけでなく人間や野生動物、植物などさまざまな生物に影響を及ぼしているという。
朝日新聞デジタル企画報道部記者・小川詩織氏が光害の実態や、日本やフランスで行われている取り組みについて取材した。
「光害」の小さな犠牲者“ウミガメ”
光害の影響を大きく受けているのが“ウミガメ”で、特に産卵が関係しているという。夜になると産卵のために砂浜に上陸して、100個以上の卵を産んで海に戻る。孵化した子ガメも生まれてまもなく海へと向かうが、そのとき方向を定めるのに重要なのが「光」。星や月明かりなど海に反射した光をたどる習性があるためだ
アメリカ・フロリダ州のフォートマイヤーズビーチでウミガメを光害から守る取り組みを行うウミガメ保護機構のエミリー・ウーリー氏は「孵化したウミガメや母ガメは人工の光によって方向感覚を失うことがある」と話す。
街灯や建物の照明など強い人工の光によって母ガメが危険と判断し、そもそも産卵をしなくなる。孵化した子ガメは海に反射した自然の光だと勘違いしてしまい、砂浜を這い回って捕食されたり、ときには街に出て車に轢かれてしまったりすることもある。
こうした状況に、ウミガメ保護団体は3つのルールを守ることが重要だと語る。「1つ目は光を低く保つこと。2つ目は遮光すること。3つ目は光の波長を長く保つことだ」とした。
光害はウミガメなどの野生動物だけにとどまらず、植物にも影響を及ぼしているという。小川氏は街灯などによる「稲穂」への影響を指摘して、「稲が人工の光に当たると日中だと勘違いし、光が当たったところだけ穂が出てくるタイミングが遅れてしまう。それにより収穫量の減少や品質の低下などが問題視されている」と説明した。
パリや東京での光害対策
では、光害対策としてできることとは何か。フランス・パリでは、エッフェル塔や街頭広告、看板の消灯時間を23時45分に設定している。この取り組みは、2年前のウクライナ侵攻によって起きた燃料費の高騰を受け、消費電力の節約と光害対策を目的に始まった。違反者に対して罰金を科すなど、町を挙げて光害対策に取り組んでいる。
「フランスは国としてもルールがあり、街灯や看板の明かりを深夜1時までに消灯することが定められている。ヨーロッパのなかでもフランスは、光害対策における先進国の一つだ」(小川氏)
一方、東京では建築照明デザインを行う企業「ライティング プランナーズ アソシエーツ」が街で光害にならないライトアップの調査をしている。この活動は照明デザインの研修の一つだそうだ。
「この企業は1990年から“照明探偵団”という活動をしている。これは照明のあり方を考える市民参加型のワークショップで、担当者の方が『光害に対する意識を高めていくことが大切』だとして開催しているそうだ」(小川氏)
急増する人工衛星…星空や人類への影響も
さまざまな問題を引き起こす光害だが、地上だけでなく星空にも影響があり、それは人類の脅威にもなると危惧されている。その原因としてあげられるのが人工衛星だ。初めて打ち上げられてからおよそ70年、今では1万機以上が宇宙に存在する。
米国立 光赤外線天文学研究所のコニー・ウォーカー氏は「天体の撮影中に(衛星が通過すると)光の線が画像上に残り、一度その光の線が画像を横切ると、その下にあるデータが完全に失われる。そのため地球に接近する危険な小惑星があっても、光線の下にあればデータが完全に消えてしまう」と語る。
しかし、衛星群にはメリットもあるとして「例えば気候変動の調査や水資源の管理、遠隔地に住む人々の教育に役立っている。『衛星を持たないで』と言っているわけではなく、責任ある行動をしてほしい」と訴えた。
これを受けて小川氏は「2013年に直径約17mの小惑星がロシアの上空で爆発して、その衝撃波によってビルのガラスが割れ、約1500人もの人がけがをするなどの被害にあった。小惑星は事前に発見することが大切であるため、軌道を知る重要性は高まってきている」と語った。
また、星空への影響も大いにあるとして「いま見ている星の多くが人工衛星になり、過去の景色とは変わってしまうと警鐘を鳴らしている研究者の方もいる」と説明した。
「現状、“光害”という言葉は認知度が低い。まずは私たち自身が光の使い方を意識しながら生活していかなければならない」(小川氏)
(朝日新聞/ABEMA)