果樹農家を廃業後、今は夫婦で年金暮らしをしつつ、5年ほど前から2km下に300坪の畑を借りて、少量の野菜を栽培している。険しい道を車で行き来しながら、収穫したきゅうりやエンドウ、いんげんなどを産直市場へ出荷しているのだ。
この地を出ようとは思わなかったのか。夫が「そんなこと思ったことないな。魅力も何もないけど、戻ってきたら『やれやれ』と(安心する)。ここで死ぬつもりはあっても、下りるつもりはない」と語れば、妻も「ちまちました壁と壁との間が狭い所だったら大きな声で喧嘩できへん。パジャマのまま昼までいてもなんともない(笑)。ここがええんやな」と笑顔を見せた。
4人の子どものうち、11年前に長男を36歳で亡くすという悲しい出来事もあったが、夫婦で支え合い、来年には金婚式を迎える。お互いに欠かせない人生の“相棒”として、ゆったりとした時間を過ごしていた。