中東・シリアで反体制派の電撃的な攻勢により政権が交代し、アサド大統領は事実上、ロシアに亡命。反体制派のシャーム解放機構の指導者・ジャウラニ氏は 8日、演説を行い「シリアにとって新たな歴史だ」と勝利宣言を行った。
政権崩壊の背景と今後のシリアについて、テレビ朝日外報部の荒木基デスクに聞いた。
━━シリア政権の崩壊をどのように受け止めている?
「『驚くほど早かった』というのが正直な感想だ。『北のアレッポを制圧した』という一報から10日ほどで首都ダマスカスまで来てしまった。アレッポからハマ、ホムス、ダマスカスという都市は日本の東海道みたいなもので4都市は高速道路で繋がっており、この路線を抑えることはシリアを支配することとほぼ同義になる。これだけ早かった背景にはアサド政権の政府軍がほとんど抵抗しなかったことが挙げられるだろう」
━━なぜ政府軍は激しく抵抗しなかった?
「すでにアサド政権のグリップが効かなくなっていたことが一つ挙げられるだろう。その背景には“三つ巴の膠着状態”がある。10年ほど前はイスラム国やアルカイダといったイスラム過激派が大暴れしていたが、その後弱体化。一方でトルコと接する北方ではクルド人が力をつけてきた。これらとアサド政権の政府軍の力が膠着していた中で“緩み”が生じたのでは」
━━シリア市民はどのように受け止めているのか?
「多くの人がアサド政権崩壊を喜んでいる。実はアサド家はイスラム教のシーア派の分派の小さなコミュニティ出身であったこともあり宗教的基盤がなく、秘密警察などを使った恐怖政治で抑えつける形で統治を続けてきたのだ。そうした中で、イスラム原理主義の人たちが抵抗して内戦が起こるという不安定な状況が10年前から続いていたのだ」
━━内紛によって難民になったシリア人はどこの国にどの程度いるのか?
「シリア国内から避難した人は数十万人とも数百万人とも言われている。多くの人たちはヨーロッパや近隣のトルコ、アラブ諸国などに逃げた。もちろん彼らもシリアが安定すれば帰ることが可能になる」
━━アサド大統領は今どうしているのか?
「アサド大統領は家族とモスクワに到着し亡命の申請した伝えられている。実はシリアとロシアとの関係はソ連時代に遡る。シリアは反アメリカ、反イスラエルの国であり、アラブ社会主義という独特のイデオロギーを標榜しており、ソ連との関係が非常に深かったのだ」
━━なぜロシアはアサド政権を助けなかったのか?
「シリアにはロシアの基地があり地中海に向けた重要な拠点になっていたが、ロシアはウクライナとの戦いで相当疲弊してしまったためか反体制派がイドリブから侵攻した後にミサイルを打ち込んだ以降は軍事的に介入した形跡がほとんど見られていない」
━━イランもアサド政権を支援してきたと言われているが、今回はどのような動きを見せているのか?
「イランは今のところほぼ静観している。イランと関係が深いと言われるレバノンのヒズボラも『支援をする』というような姿勢を見せてはいたが結局動くことはなかった。両者とも最近のイスラエルとの戦闘で疲弊しているのではないか。つまり、反体制派側からするとアサド政権を助けてくれそうな国が窮地に陥っており『このタイミングを狙わない手はない』という時期だったのでは。ロシアについては既にシリアから航空機や船を撤退させる準備を始めているとも伝えられており、プーチン大統領にとっては“中東での大きな足がかり”を一つ失ってしまった言っても過言ではないのかもしれない」
次のシリアのトップは誰?
━━アサド政権は崩壊したが、今後反体制派同士で内戦になる恐れはないのか? 次のシリアのトップは誰が務めるのか?
「今回、政権を倒す立役者になったシャーム解放機構は元々アルカイダ、あるいはイスラム国、その辺りのイスラム過激派の人たちが母体になっている。ただし、反体制派を率いたジャウラニ司令官はこの戦いにおいてイスラム過激派色を一切排除しようとしており『自分たちはイスラム教を広めるために戦っているのではない。今のシリアを変えるために、シリアを再建するために戦ってるんだ』という姿勢を前面に押し出している。とはいえ、シリアの反体制派も多くのグループに分かれており、先述のクルド人のグループもおり、他国に亡命していた指導者たちも戻ってくる。そんな人たちの間で誰がシリアの舵取りをするかという議論がこれから始まるのだ」
(ABEMA/倍速ニュース)