ドクターヘリで運ばれた青葉被告は、3段階に分類されるヤケドで最も重い「III度熱傷」だった。特別チームを結成し、わずかに残った無傷の皮膚から、培養表皮を作り移植した。手術は、患者の体力を考えて、一度の皮膚移植は3時間まで。約20%ずつ、複数回に分けて行われた。
懸命に救命に取り組んだ上田医師は、青葉被告の死刑確定をどう感じているのか。「判決は司法が行うことで、どういう判決が下されようとも、それを受け止めるしかない。第三者的な、冷静な気持ちで受け止めた」。
裁判については、「黙秘を続けるかどうかを気にしていた」という。「自分の言葉で主張したいことが伝えられたかはわからないが、ある程度自分の言葉を使って、裁判に臨んだということは、治療した意味があったのではないか」。
一方で「司法的なことはわからないが、裁判記録を読み返すと、裁判員裁判は被害者や遺族に配慮するよりも、勝ち負けにこだわる“戦略的な裁判”が主流になっているような気がした。そういう人たちの気持ちがないがしろにされているんじゃないかと思う。もっと彼の口から、犠牲者や遺族に対する謝罪の気持ちを聞きたかった」とも語る。
上田医師は、青葉被告に聞きたいことがある。「判決が下って、どう感じたのか。そこから1年経って、今の気持ちがどうか。そして、犯行について、やらなかったら良かったと後悔していてほしいので後悔しているのかどうか。彼自身が九死に一生を得て、命の重みや尊さについて、どう考えているのかもう一度聞きたい」。
「被告のバックグラウンドだけで事件を片付けるのは短絡的。かといって社会の歪みだけにしても良くない。両方が複雑に絡み合っている。最近は、孤独で失望した人が自暴自棄になり、人を巻き込む犯罪が増えている。こういう人間は氷山の一角だと思う。同じような事件が起こらないようにするには、どうしたらいいか。社会がそろそろ目をそらさずに、逃げずに関わるべきではないか」(上田医師)
鳥取大学へ赴任した後には、遺族から電話があったそうだ。「本来は患者や他の家族からの電話は取り次ぐことはないが、交換の手違いで電話を受けた。『彼を救命してくれたから裁判に臨める。感謝を伝えたいと思う遺族も少なからずいる。非難されることばかり考えず、感謝している人間がいることを知って欲しい。本当は治療中に伝えたかったが、プレッシャーになるからと我慢していた。どうしても伝えたかった』と連絡をもらい、治療した意味があったなと思った」。
(『ABEMA的ニュースショー』より)
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