その上で、地下鉄サリン事件を防げなかった原因について、「日本の警察が総力を挙げても、危機を事前に察知できなかった。日本全国で情報が出てきているにも関わらず、ひとつ一つが小さいため、情報の共有がされなかった。小さな情報から『この団体は何をしようとしているのか』の全体を把握しようとする構想力が不足していて、事前に動けなかったのが一番の問題だ」と指摘した。

 テレビ朝日報道デスクの清田浩司氏は、取材を通して「一連のオウム事件では、立件されただけでも29人が亡くなっている。それだけ連続して殺人事件が起きていながら、警察は何をやっていたのか。坂本事件は横浜市で起きたが、神奈川県警がちゃんと捜査していたら、松本や地下鉄サリン事件は起きなかったのではないか」と疑問に感じている。

 ネット掲示板「2ちゃんねる」創設者のひろゆき氏は、「民間企業であれば、税務署や警察が簡単に入れるが、宗教は政治家が手を出してはいけない状況にしている。旧統一教会ですら解散できない現状で、もしテロを行う宗教団体があったとして、そこに手を入れられる組織はあるか。『宗教を攻めてはいけない』という構造が残る以上は、何も変わらない」と問題視する。

 五十嵐氏は、「警察も“信教の自由”を守らなければいけないという、ためらいはあっただろう」としつつも、「大量破壊兵器であるサリンの製造は、宗教法人だからと言って許されるものではなく、そこはあまり捜査に関係しない」。一方で、「兆候がありながら、動きが遅く情報共有ができていなかった状況は、今回の聞き取りで感じられた」と話す。

■今の世の中は地下鉄サリンを防げる?

地下鉄サリン事件を防げなかった原因
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 Age Well Japan代表の赤木円香氏は、若者がオウムに入信した背景に「バブル崩壊後の経済や政治に対する不信があった」と考察し、「今の若者も、1990年代と同じくらい不安なのではないか」と心配する。「マスメディアよりも、SNSで好きなものだけを見るようになると、宗教観が入ってきて洗脳される。オウムの手法とは違うが、似たようなことが起きている」。

 ひろゆき氏は、当時の風潮を「麻原彰晃は、テレビ番組で人生相談や討論をするなど、『うさんくさいけど、ちょっと面白い人』として認知されていた」と振り返る。しかし、真理党の候補者は全員落選した。「今の日本は、迷惑系YouTuberが国会議員になり、国政政党が選挙で迷惑行為をやり続ける。昔よりも今の方がヤバい。より悪化している」。

 そして、「ちょっと前には“Q”に感化された人が、ワクチン接種会場に入り込んで逮捕された。『自分が信じることを広めるべきだ。そのためには、人に迷惑をかけても当然だ』という人たちが、ネットに集まるため、悪化の速度が増している」と警鐘を鳴らした。

 近畿大学 情報学研究所 所長の夏野剛氏は、心理的な変化に加え、「核や生物兵器、サイバー攻撃など、テクノロジーがより身近になり、大規模なテロ行為は当時よりも間違いなくやりやすくなっている」点についても危機感を示す。

■今の世の中は地下鉄サリンを防げる?
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