目を見開いた彼の顔は恐怖でも怒りでもない、どこか“無”に近い表情。赤く血走ったようなその目は、戦場の中で自我が薄れていくことを示しているかのようで、戦争がいかに人を変えてしまうかをまざまざと見せつけてくる。

 アムロがロボットを操縦しているのではなく、一体化して暴れているようにも見えるこのシーン。熱い展開のはずなのに、どこか背筋が寒くなるのは彼が少年であること、そしてその心が確実にすり減っていることは、誰の目にも明らかだったからだろう。

 アニメ「機動戦士ガンダム」が放送当時に一線を画していた理由のひとつに、こうした“戦争のリアルさ”を描いたことがある。敵を倒せばスカッとする、そんな単純な勧善懲悪ではない。戦うたびに研ぎ澄まされていく反応の裏で、アムロの精神は限界に達しようとしていた。

 ガンダムの動きが人間離れしていたのは、マシンの性能ではなく、パイロットが限界を超えてしまった結果だったのだ。それでも戦いは終わらない。アムロがその目を血走らせながら、また出撃する。その姿は、技術でも性能でも語りきれない「戦争のリアルさ」を体現していた。誰かが指示したわけでも、望んだわけでもない。ただ、戦うことしか許されなかった少年の刹那の狂気が、深く胸に突き刺さるワンシーンとなった。

 アニメ「機動戦士ガンダム」は1979年4月から1980年1月まで放送されたサンライズ制作のロボットアニメで、富野由悠季監督が手掛けた作品。“リアルロボットアニメ”という新ジャンルを開拓し、以後のロボットアニメに多大な影響を与えた。放送当時の視聴率は振るわなかったが、再放送や劇場版の公開で人気が急上昇すると、「ガンプラ」ブームも生まれた。以降のガンダムシリーズや、スピンオフなどの派生作品も多数制作され、現在も高い人気を誇る。

(C)創通・サンライズ

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