「出自を知る権利」とは

江蔵さんの取り違え訴訟の経緯
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━━2006年の裁判では取り違えの認定はされたが、「調査」はできないという判決だった。今回の裁判では「調査を命じる」という判決が出たが何がポイントになったのか?

「かなり画期的な判決だった。東京地裁は判決の中で、自分の出自を知らない者について、本当の親は誰なのかを認識して、その親から養育を受けるということは親子関係における普遍的な基礎であると認定した。その上で、取り違え当事者である江蔵さんについて、いくら被害が67年前だとしても、仮に本当の両親が亡くなっていたとしても、子どもの親を知る権利は失われないものだ、と。かなり踏み込んだ判決を下した印象を受けた」

━━出自を知る権利ということか

「そうだ。出自を知る権利は国際条約で認められているものだが、今回の裁判で難しかったのは、取り違えがあった場合にその親をどうやって知るのか、調査をするべきなのか、国内法の整備がされていないことだった。法律的にはかなりハードルの高い裁判だったと思う。ただ今回、東京地裁はそのハードルを乗り越えて、子どもは出自を知る権利があり、そしてそれを知るためには調査する義務がある、ということを指摘した判決を出した」

━━国内法だけでは乗り越えられない壁があったものの、国際的な考えも反映された形なのか?

「どうしたら調査する義務が発生するのか、その法的根拠は何か、よく考え、練って練って戦ってきたという印象だ。その際に、国際条約で出自を知る権利が認められているので、これは日本国内の人にも適用されると主張していた。そういった権利は日本国民にあるとした上で、出自を知る権利があるからといって、直ちに東京都に調査義務が発生するとは認定できていない。テクニカルな話になってしまうが、まず、病院が親にちゃんと子を引き渡す義務があって、その義務というのはどれだけ時間が経っても、そして親が亡くなっていても、一生消えることはないということを認定したということだ」

━━「調査を命じる」と判決が出ているが調査の方法に関して裁判所は触れているのか?

「かなり具体的に調査の方法を命令している。もちろん今回裁判のやり取りの中で、原告が最初に『こういう調査方法でお願いしたい』と裁判所と被告の東京都に提案したが、それに対して東京都は『これでは第三者のプライバシー侵害の恐れがある』として争う姿勢をずっと示してきた。それに対して裁判所は、おそらく、どうやったら調査ができるかを一緒に考えてくれていたのだと思う。別の方法を提示してみてくださいということで、原告が別の調査方法を提示した。その調査方法をほぼ全て任用するような形になっている。具体的には、まず江蔵さんが生まれた年の出生届を調べて、その中から男性とその両親の現住所にDNA鑑定を依頼する。その調査結果に関して本人の同意が得られれば江蔵さんに伝える。そのため、2段階に分かれる。まずDNA鑑定に相手が応じてくれるかどうか。さらに、血の繋がりがあるとわかった時に江蔵さん本人と連絡を取りたいという希望があるかどうか。この2段階がクリアできれば江蔵さんは本当の親と連絡を取ることができる」

━━裁判所側は原告である江蔵さんに寄り添った判決を下したということなのか?

「私の個人的な意見だが、法的根拠がない中でどうすれば調査を命じられるか練りに練ってロジックを組み立てている判決文だと思った。原告が提示した調査方法にプラスアルファでもう少し分かりやすく書き加えているような印象もあり、裁判所としてもなんとかして調査をしてほしいと思いがあったのではないか」

━━ここまで寄り添った形にしたのは江蔵さんだけではない、少なからずいるであろう、取り違えで悩んでいる人たちに向けて、裁判の判決が1つのケースとしてこの後にも影響してくることまで考えたのか?

「日本国内に江蔵さんと同じような人が何人いるかはっきりした統計もなく、実際に取り違えがあった場合、誰がどう責任をもって調査するのかも、明確な国内法の規定はなかった。そのため、これを契機に『私も』という人が出てきて、そういう人たちにどう対応していくのかを自治体なり国なりで考えていく方向になるきっかけにはなるのではないか」

判決を受け、江蔵さんの反応は?
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