■せん妄の診断基準、認知症と重なる部分も?
認知症をはじめ脳を専門とする国立長寿医療研究センターの前島伸一郎医師は、せん妄について次のように説明する。「簡単に言うと、意識障害の一種。“意識障害”と聞くと、一般には昏睡(こんすい)状態がイメージされるが、そこまで重くなく、意識がぼんやりとして、注意力や思考が一時的に混乱する状態だ。原因は複合的だと言われているが、簡単に言うとストレス。手術や肺炎、一般的なのは睡眠薬や抗不安剤などの薬、あるいは大樹さんのような脳疾患や頭部外傷、入院など環境の変化や、認知症によって引き起こされる場合もある」。
せん妄の診断基準には、「意識水準の変化(覚醒度が高すぎる/低すぎる、変動する)」「注意の障害(持続・集中・移動に困難がある)」「認知機能の急激な障害(例:記憶、見当識、言語、思考の混乱)」「幻覚(特に幻視)」「妄想(ときに被害妄想)」「睡眠障害(昼夜逆転など)」「感情の不安定さ(不安、興奮、抑うつ)」がある(出典:ICD-11<国際疾病分類第11版>)。
また、認知症とはどのように違うのか。せん妄の発症は亜急性・急性で、意識障害あり。発症期間は一過性(数時間〜数週間)で、日内変動と身体疾患、環境の関与はともに多い。一方の認知症は、発症は緩徐で、意識はおおむね正常。発症期間は持続性があり、日内変動と身体疾患、環境の関与はないことが多い(朝日生命 介護保険特別WEBサイトを参考に作成)。
前島氏は「区別しにくいところもあるが、認知症は比較的ゆっくりと進み、記憶力が悪くなるなどの症状が出る。せん妄は急に起こり、注意力や集中力がなくなることが問題になるイメージ。せん妄の多くは一過性で、一時的な症状だ」と説明する。
治療法については、「『この薬ですぐ治る』というわけではない。環境をうまく変えてあげて、自然と脳が落ち着いてくるのを待つことが多い。一度治った人が、また何かのきっかけでなることはある。高齢者や認知機能が落ちた人、日常生活が普段通りにできなくなっている人は、なりやすいと言われている」とした。
では、身近な人がせん妄状態になった時はどうすればいいのか。「何も知らないと気が動転するか、ぼうぜんとしてしまう。しかし病状を知ることで、家族の受け止めも違ってくる。辻褄の合わない話をされても、無理に否定しないで、うまく話を合わせて乗り切るのがいい」とアドバイスする。
生活リズムを整える役割も、周囲の人々は担える。「昼夜逆転することが多いため、昼間はリハビリをして、夜は寝られるようなリズムを作り、自然な回復を促す。原因となっているものを取り除くことも必要だ。脳にダメージがあるなら治療をしっかり行う、薬が原因ならその薬を取り除くことが大切になってくる」と促した。(『ABEMA Prime』より)
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