■女性ホルモンが原因の「産後うつ」
産後うつは、出産後の女性(主に産後4週~)に発症するうつ病の一種を指す。理由もなく涙が止まらないなど、一般的に知られるうつ病と同じ症状が見られる。主な原因としては産後、エストロゲンなどの女性ホルモンが分泌されなくなりメンタルが崩れやすくなる、夜泣き・授乳などで睡眠不足となり慣れない育児への不安などがある。産後うつのケアに詳しい産婦人科・高尾美穂氏は「妊娠中は女性特有の臓器である卵巣が作る女性ホルモンが一番大活躍をする時期。赤ちゃんが生まれると胎盤も失われることにより、いきなりホルモンがない状態になる。ホルモンは肌の調子、髪の毛など美容的な面での働き以外にも、不安にならないように守るというものがあるため(産後は)メンタルが落ち込みやすいし、上がりもしない時期」と説明した。
産後の母が抱えるものには「マタニティーブルー」もある。こちらは不眠・頭痛、涙もろくなる、情緒不安定などが主な症状で産後2~3日で発症。数週間で自然に回復することが多い。産後うつは産後数週間~数カ月で発症し治療をしないと改善しにくく、個人差はあるものの回復まで長期間を要する。高尾氏は「家の中で母親自身と思い通りにならない赤ちゃんという閉鎖空間にいて、メンタル的な不調に誰も気づかない、医療的なアクセスができず改善が見込めない状態になる」とも語った。
夫婦ともに医師であるミカさんも、産後うつを患ったうちの一人だ。産後4週間まで自宅に母が泊まり込みでサポートをしてくれていたが、母が帰った後から漠然とした孤独・不安感が募り始めた。「症状が出始めたのは産後2カ月後くらい。子どもの泣き声にものすごく恐怖を感じて震えが止まらなくなった。抱いていた息子を落としそうになるくらい力が抜けてしまったり、そのままボロボロ涙がこぼれてきたり。ひたすら恐怖に怯えていた」。自身も医師であることから、専門ではないものの学生時代に精神科の領域で産後うつについては勉強し知識もあった。夫も仕事から早めに帰宅するなどサポートはしてくれた。「(夫が)家に一緒にいてくれる時間が一番うれしかった。家に子どもと2人きりなのがものすごく恐怖だった」。
■閉鎖空間で常に子どもと1対1 悩む母たち
