黒澤信彦代表取締役
【映像】「sold out」の文字が並ぶ黒澤ファームのHP
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 「令和の米騒動」と呼ばれる状況で浮き彫りになった日本の農業政策の脆弱性。そんな中、30年前から集荷業者に頼らずに直売に舵を切り、輸出でも成功している農家に話を聞いた。

【映像】「sold out」の文字が並ぶ黒澤ファームのHP

 国による抜本的な改革が進められようとする中、独自の路線で顧客にコメを供給し、農家としても納得の価格設定を実現しているのが山形県の農業法人、黒澤ファームである。

「父が農協の理事をしていて、私が農業を始めた時には全量農協に出荷でコメ作りがスタートしたが、一生懸命作ってこだわっているコメでも、普通に作ったコメでも、同じ倉庫に入って同じ評価を受けることに関しては疑問に思っていた。自分のコメの評価を、食べた人に評価してもらえるようにするには直接売るしかないということで、約32年になるが『直売しよう』と」(黒澤ファーム 黒澤信彦代表取締役、以下同)

 460年以上続くコメ農家で、現在は、法人から個人まで幅広く販売。ホームページを見ると、「sold out」の文字がずらっと並んでいる。

 業界全体が逆境の中での“勝ち組”に見える黒澤氏だが、独自の販売ルートを築くため、最初に始めたのが東京での訪問営業という地道な取り組みだった。

「ドアに鍵がかかっていて、『セールスお断り』『猛犬に注意』。自分が作ったコメ1合の袋を『食べてください』と伝えることもできなくて、阿佐ヶ谷の駅前でティッシュを配るようにお米を配っていた」

 一度食べてくれれば分かってもらえると意気込んだが、思うようにはいかなかったと振り返る。徐々に口コミが広がるなか出会ったのが、現在販売している「夢ごこち」につながる品種だった。

「2000年に初めてお米のコンクールに出品した時に、うちのコメが最優秀賞になってから『買ってください』から『売ってください』に変わった」

 新潟や秋田のブランド米ばかりが脚光を浴びる中、山形県の美味しいコメを印象付けた黒澤氏。いまでは、香港やシンガポール、ハワイに輸出するなど海外でも食べられるコメになっている。

「最優秀を取ったことで、『黒澤のコメが最優秀だったら、隣で作っている俺のコメだって最優秀になる可能性がある』と広がってきたことで、美味しいコメを作る意識が上がった。農協ではないところに出荷するのは不安だったと思うが、生産してもらった。しかも評価を受けることができた。稲刈りをした時、来年の春また田植えをしたいという意欲が湧くか湧かないかが、コメ作りには非常に重要だ」

黒澤氏は政府の動きをどう見る?
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