キヤノングローバル戦略研究所・山下一仁研究主幹
【映像】“国産備蓄米”が大量に売れ残っている様子(実際の映像)
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 5月末に小泉農水大臣が就任して以来主導した「備蓄米」が早くも店頭に並び始めている。そんな状況の中、JAが中心となるコメの流通などに問題があるのではないかという批判や、JAと深く繋がる「農水族」にも注目が集まっている。

【映像】“国産備蓄米”が大量に売れ残っている様子(実際の映像)

 農水族とはどういった存在なのか。元農水省の官僚で、農業政策に詳しいキヤノングローバル戦略研究所・山下一仁研究主幹はこう解説する。

「農業の利益を確保するための政策集団と言えばいいが、基本的に国会議員は、自分たちが次に当選できるかが一番の関心事。防衛政策や安全保障政策については、野党と与党はすごく対立する。ところが、農業については自民党から共産党までみんな農業保護だ。みんなその農業票が欲しい。ある意味、野党・与党にも農林族(農水族)はいる。その人たちが農業政策については、ほかの人たちには意見を言わせない」(山下一仁氏、以下同)

 今まで農水省が行ってきた政策は、事実上の「減反政策」によって市場で決まる値段より高くすることで、いわば『減反高米価政策』が行われてきたという。

 このような政策を支えてきたのが「農政トライアングル」。なぜこのような構造が生まれたのか。

「自民党の農林族の利益、農林省の利益、JA農協の利益を守りたい。その3者の小さな世界の中心になるのは、減反高米価政策。米生産を維持したことが票田になった。水田が票田になって、農林族議員の人たちを当選させた。農林族議員の人たちは、農林省が財務省に予算を要求するときに政治的にバックアップした。農林省としては予算も獲得できた。獲得した予算で減反政策を推進して農協を助ける、こういう構図」

 今回、直接小売店に売るという「随意契約」によって、JAを飛ばして売るという既得権益を相手に戦っているように見える小泉農水大臣。その姿は、父親の小泉純一郎元総理が、「郵政民営化」を訴えていた時と似ているようにも見えるが。

「小泉元総理の郵政改革の時と違って、あの時は小泉さんが自分で風を起こした。今回は風が吹いている。今までは、国民のほとんどの人たちは米の値段が高いとか、全然関心を持っていなかった。減反制度は異常な政策で、補助金を出して米の価格を上げる。医療だと、補助金だったら3割負担で医療サービスを受けられる。異常な政策をやってきたことにようやく国民の大多数が気づいた。だから風はものすごく小泉さんに、あるいは石破さんに吹いている」

 今回の動きで、今までの農水族がやってきたことに少し風穴があいたと話す山下氏。今後のコメ政策については、こう話す。

「減反をやめて米価を下げるということ。下げて、影響を受ける主業農家の人たちに直接支払いをすれば、その人たちの所得が確保でき、農地はコストの高い人は米価が下がると赤字になるのでやめていく。その農地を大きな農家に貸すことになる。元の兼業農家の人たちも地代上昇で利益を受けるし、主業農家の人たちも規模が拡大、コストダウンで収益が上がるから利益が上がる。消費者も価格がどんと下がるというメリットを受けられる」

小泉大臣とJAの関係はさらに悪化?
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