イランの首都テヘランで、軍の参謀総長や革命防衛隊の司令官など、イスラエル軍の攻撃で殺害された60人の国葬が行われた。
21日のアメリカ軍によるイラン核施設への空爆後、トランプ大統領は「核施設を完全に破壊した」と主張している。
しかし、6月29日付のワシントン・ポスト電子版の報道によると、アメリカが傍受した通信では、イラン政府高官らがアメリカ軍の攻撃による核施設の被害が、予想よりも壊滅的ではなかったと話しているという。
近く、イランと協議する旨を語っていたトランプ大統領。しかし、イランのアラグチ外相は、アメリカとの協議に応じるかは「イラン側の利益次第」だとしていて、協議再開について合意や約束はなく、議論すらしていないと話している。
紛争はこのまま沈静化していくのだろうか。中東・イラン情勢に詳しい慶應義塾大学の田中浩一郎教授に聞いた。
「沈静化されれば、それが一番望ましいが、イスラエルが目指した、そしてアメリカも乗っかった、“イランのウラン濃縮設備”が本当に破壊されたのかどうかがまだわからない。残っていたら、イスラエルがまた手を出す可能性は大いにあるのでそのあたりの所でどうなってしまうのか、というのはある」(慶應義塾大学・田中浩一郎教授、以下同)
さらに、「停戦合意」の実効性も乏しいという。
「かなりゆるい停戦のため、細かなところは何一つ決められておらず、そもそも事前にイスラエルに対する条件、イランに対する条件というものをトランプ大統領やアメリカが詰めていたのかというと、それすら怪しい。とりあえず双方(イランとイスラエル)が撃ち合うのはやめた。一旦止まったという点では停戦は停戦だが、この間、イスラエルは米艦隊が地中海に寄ってきて防空設備をだいぶ損耗しているため、穴埋めしてくれるまでの時間を待っている。イランは、これ以上一方的に攻撃を受けるとさらに不利になるだけなので、一旦停戦に応じている。アメリカもイスラエルも、引き続きイランを叩く動機を持ったままであり、状況次第では戦火が開かれてしまう」
また、イスラエルには、“第二の目的”があると、田中教授は指摘。
「もちろんウラン濃縮設備が第一の目的だが、イランの体制、特に軍事力を削ぐということが次の目標。交戦を行えばイスラエル側にも被害が出るので、そのような事がないように。いつでもイスラエルがイランを攻撃することはできるけどイランから反撃がないようにしたいというところまでが入っていた。ところが初期の軍事作戦が予想以上にうまくいったということで、目的が拡大して、今のイスラム共和国という1979年の革命を経てできた体制も潰せるところまで持っていこうという考えが広がっていった」
そのイスラエルとアメリカの連携について、足並みは揃っているのだろうか。
「もともとアメリカは体制転換まで踏み切るつもりはなかったとはされてはいるが、トランプ大統領の手柄になる、すなわちレガシーにも成り得るので、1979年に今のイランの体制ができてからアメリカとの関係もぐちゃぐちゃになり、長い間、敵対もしてきた。今回の一連の流れの中で、例えば潰すことができる、あるいは除去することができるというのであれば、レーガン氏も含めた歴代のアメリカ大統領ができなかったことなので、それは勲章になると思っている。どうしてもそこに触手が動いてしまう」
「停戦状態をいつまで維持するにしてもアメリカやイスラエルが引き続き攻撃をしたいという意欲を持っている。それも決して隠していないので、例えばこの先、双方に何も落ち度がなかったとしても、イランとアメリカとの間の核交渉というものが成立するかどうかすら怪しい。ただイランに対してアメリカは開戦の前からウラン濃縮設備を“全部放棄しろ”と、未来永劫にわたってやるなというある種の最後通知を突きつけていた。これをイランが受け入れるとは言っていないので、また交渉が仮にあったとしても、それはイランが乗らないか、あるいはアメリカの要求を拒否するということになると、再びアメリカがイランに攻撃を仕掛けることも大いにまた考えられる」
アメリカとイラン 協議はどうなる?専門家が解説
