佐藤氏の「推し本」6選

政治学者・佐藤信氏
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 今こそ読んで欲しいと、厳選した6冊をスタジオに持ち込んだ。

 1冊目:『日本の国会議員』(濱本真輔 著/中公新書)

「こないだの参院選で初めて投票した人も少なくないはず。けれど、選挙が終わると、街にいた候補者はいなくなって、選ばれた人たちがその後何をやっているのか、よく分からなくなってしまう。この新書は、コンパクトながら国会議員が何をしているのか、詰め込まれている。例えば議員の地元と東京の往来の頻度、秘書の数の違いといった日常から、党議拘束はどのくらいかかるのかなど、さまざまなデータが提示されている。通読しなくても、関心のあるところだけ開くだけでも面白い。比較的新しい本だが、私なんか何度も読んでもうちょっと傷んでる」

 2冊目:『代表制という思想』(早川誠 著/風行社)

 選挙で選んだはずの議員が、思ったように動いてくれない。そう不満を持つ人もいるかもしれない。こちらは議員と私たちの関係について考えるための1冊だという。

 とはいえ、「代表制」って難しそうだが…。

「『代表』って簡単そうに聞こえるけれど、『代表』と『代理』は別の概念。『代理』は本人に指示された通りに動くが、『代表』は、本人から選ばれているとはいえ、自分自身の判断で動く」

「日本の場合、国会議員は全国民の『代表』だと憲法に書いてある。議員は、『全国民』の代表なので、自分を選んでいない人や選挙区ではない人たちの意見も代表しなければならないし、『代表』なので『こんなこと頼んでいないよ』ということを議員がやることもおかしくはない。本書は「民意を反映しないことが民主主義を活性化させる」といったように、私たちが代表制や議会を持っていることの意味を考えさせてくれる」

 3冊目:『選挙との対話』(荻上チキ 編著/青弓社)

 次は専門家の文章や哲学対話の記録などがまとめられた一冊。

「なぜずっと自公政権なのか。人々はどういう基準で投票しているのか。日本を引っ張っている選挙研究者たちが、データを交えつつ平易に短く解説してくれている本は実はあまりない。専門家たちがどのように現在の日本政治をみているのか、今の政治や選挙の前提をアップデートしていただくのにとても良い」

 4冊目:『自公政権とは何か』(中北浩爾 著/ちくま新書)

 続いて、新書なのになかなか分厚い一冊。

「衆参両院で少数与党となり、連立が話題になっている。参考になるのは、これまで強かった自民・公明の連立がどのようなものだったのか、ということに加え、これまでヨーロッパ政治でつくられてきた連立(連合)の理論だ」

「本書のメインは保守の自民と革新の公明がどのように連立するようになったのか、続いて来たのかという歴史。ただ初めに連立の理論について紹介されている。大陸ヨーロッパでは多党制でどの党も過半数に達さず、連立しないと政権が取れないことが多い。そこで作られた連立の理論についてコンパクトにまとめてくれている」

「刊行(2019年)当初読んだときには、『日本にはあまり関係ないのでは』と思ったが、今ここにきてみると、今後の連立の形を考えるのに参考になる。過去の歴史も、今後について考えるための理論も両方見ることができるという、うまみが詰まった1冊」

 5冊目:『プラットフォームとデモクラシー』(駒村圭吾 編/慶應大学出版社)

 これまでが現代の日本政治を理解するための本だとすれば、最後は一転して政治の未来を考える本。

「国家にも匹敵するデジタルプラットフォームという存在が現れたことを前提に未来を考える四巻本の一冊。この巻は私も寄稿しているが、フェイクやAIが溢れ、身体が溶けていく時代に、私たちの政治やデモクラシーに関するイメージを広げてくれる本。想像力を働かせつつ、政治にはどういう可能性があるのか、考えを広げるのにいいと思う」

 論文集だが、各論文がよりよい『代表』の方法として選挙に代わって注目されている抽選制など、さまざまな論点を扱っていて、興味のあるものを読んでみてほしいという。

 6冊目:『陰謀論』(秦正樹 著/中公新書)

 もう一冊挙げるとしたら、と手に取ったのがこちら。

「とても有名な本なので、みなさんご存知だと思うけれど。陰謀論関係の本はたくさん出ている。ただ、本書は主観的な話が少なく、実験やデータを集めて、着実な議論をしている本。よく知られているが、陰謀論を信じている人に向かって陰謀論を否定するのはかなり難しい。そういったことも含め、今の政治を考えるには必読書の1つ」

 6冊の本を紹介してもらったが、全部を読み切る自信はないという人が多いのではないだろうか。そうした場合、佐藤氏は、「興味のあるところから読み進めてもいい」と話す。

「私も読むのは遅く、全てを精読できていない。ただ、優れた本は1ページ1ページ力をかけて書かれていて、ほんの少し読むだけでも知識を得たり、考えさせられたりする。『読み通す』という高い目標を設定しなくて、刺激と思って手に取ってみるといいんじゃないだろうか」

(『ABEMAヒルズ』より)

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