■家族も信じ込む巧妙な手口
全てネット上のやり取りだけであれば、まだどこかでもう一度疑い、踏みとどまれたかもしれないが、手口はさらに悪質だった。井出氏が渡した金も800万円まで膨れ上がり、さすがにもう止めようと伝えた後、「1200万ドル(約13.2億円相当)の現金を預かってほしい。離婚するから妻からお金を隠さないといけない」と連絡が来ると、黒人2人が大量の黒い紙束を家に持ってきた。「すごく大きなケースに、黒いお札がびっしり入っていた。その黒人が『こうすればいいから』と何かの液体に入れて、10万円分だけ普通のお金に変えてみせた。確かに本物で使えた」。ただし、使えたのはその10万円分のみ。いわゆる“ブラックマネー”という手口だった。
その後も、井出氏は直接マークと会うことはないまま、言葉巧みに様々な要求をされて、その都度に送金。最終的な被害総額は7500万円まで膨れた。ただ本人には、マークに熱烈な恋愛感情を抱いたという実感はない。「漫画の仕事も忙しかったし、そこまで恋愛していたわけでもない。ときめきもなかった。みんながそう言うほど馬鹿みたいになっていたわけでもない」と、今でも語る。
状況を見れば、周囲の人が止めに入ることはなかったと不思議に思うところだが、家族もまた一緒に騙されていたことも事態に拍車をかけた。「次女は一緒に住んでいたし、お金を貸していたことも知っていたし、止めもしなかった。彼は私たち家族を全員、アメリカに呼ぼうともしていたし、次女もそれで本気でアメリカに行くつもりにもなっていた」。長男も井出氏をサポートする側に立ってしまい、送金する金の工面までした。最終的には、当初から事情を伝えていなかった長女が詐欺だと気づき、井出氏を説得。「ウソとわかってからは、ものすごい数の人たちが(対応を)やってくれた」と当時の様子を思い起こした。
■多様化するマインドコントロール
