山を下りた後も、女性は夫とこの土地の管理を続けた。夫は多趣味で、陶芸や木工に没頭し、自作の作業台やろくろ、陶芸作品が今も作業小屋に残されている。さらに写真も好きで、結婚する前からフィルムを現像するほど。麓に移り住むまでの山での家族の暮らしや子どもたちの成長を収めた多くの写真が、今も大切な思い出として残されている。
中でも印象的だったのは、夫が70歳を過ぎてから始めたという「録音図書」のボランティア活動だ。目の見えない人へ本を朗読してテープに録音する活動で、雑音が入らないこの山奥の作業小屋で、自作の録音ブースを使って毎日作業を行っていたという。
現在も女性は、この山奥の畑でカボチャや枝豆、里芋、じゃがいもなどを1人で育てている。夫との思い出を聞くと、「最初思ったよりは、過ぎてみると『この人に代わる人はいない』という感じでした」。2人の子どもの家族たちがこの山を訪れてくれるそうで、今の生活は「幸せ」だと笑顔を見せる。
「しょっちゅう長男が、孫とひ孫を連れて来てくれる。長女も来て、私が留守の時は書き置きをしてくれる。本当に幸せです。それはいつも思ってます。主人がいたからこうしていられる。私が今1人残ったけど、幸せを残してもらったんだなと思います」
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