なぜ「2つ数字」を出したのか?

30年以内に南海トラフ地震が起きる確率
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━━今回、「60%から90%程度以上」と発表されたが、なぜ確率が変更されたのか?

「実は、『すべり量依存BPTモデル』という『時間予測モデル』を改良したモデルが作り出されたからだ。2つの確率は異なるが、そもそもモデル(計算方法)が違うので比較ができないのだ」

━━なぜ新しいモデルが出てきたのか?

「実は『時間予測モデル』が発表されたのは2013年のことだが、12年ほど経ち、その間に科学が進歩したことで様々な知見が溜まってきた。先ほど隆起についての説明をしたが、この隆起量は高知県の室津港を調べていたのだが、科学的進歩によって “誤差”があったことが明らかになった。そうなると地震の発生確率も変わってくる。そこでモデルを『改良』して計算し直し、その結果、『60%から90%程度以上』になった。そもそも隆起量と時間はぴったり一致するものではなく、やはり地震には“ばらつき”がある。一方で『時間予測モデル』が否定されたわけでもない。『すべり量依存BPTモデル』で計算しても、隆起量と時間間隔には『正の相関関係』があることが証明されている。今回の科学の進歩のポイントは今までは『ざっくり80%程度』と言っていたものをきちんと分析したことで、『60%から90%程度以上』言えるようになったことだ」

━━『すべり量依存BPTモデル』は『時間予測モデル』の改良だというが、そもそも『時間予測モデル』と別のモデルも存在するのか?

「『BPTモデル』という算出方法がある。『時間予測モデル』は南海トラフにしか使わないモデルだが、日本の地震は東北沖など様々なところに海溝型地震あり、そこで使われているのが『BPTモデル』なのだ。そしてこれまでの『BPTモデル』では30年以内の南海トラフ地震の発生確率を『10%から30%』としていたが、今回の発表では新たな計算の結果『20%から50%』となった」

━━2つのモデルで全く異なる数字が出ることで混乱してしまいそうだが。

「実は2013年に報告書が出た際も2つのモデルで異なる確率が出ていたが、『混乱する人多いのでは』ということで当時は報告書の重要ポイントをまとめた『主文』に『時間予測モデル』だけを載せた。だが、今回の改定では『主文』に『すべり量依存BPTモデル』の『60%から90%以上』と『BPTモデル』の『20%から50%』が併記された」

━━なぜ「併記」になったのか?

「2013年から“転換”した 1点目としては、地震調査委員会としてはこの2つのモデルに『科学的な優劣』をつけられず、『現在の科学の実力はこれだ』と包み隠さず出すことに決めたこと。2点目、重要なポイントとして、そもそも地震は非常に不確実性が高い自然現象で『ぴったり何年後に起きる』という予知は現在の科学ではできない。だから今回2つの数字が出たということは『確実にこのぐらいの幅がある』ということを科学的により詳細に示すことができるようになった証拠だ」
 

「%に幅があること」の受け止め方
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